スキルアップ
2015年11月26日
パリ同時テロを招いた『移民政策』の失敗
文・茂木 誠
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テロ事件の容疑者は移民の2世


 2015年11月。13日の金曜日のパリを襲った史上最悪の同時テロは、ロックバンドのコンサート会場だった劇場と近くのレストランで一般市民130人以上をカラシニコフ銃で射殺し、90人以上に重傷を負わせました。観戦中のオランド大統領を狙ったサッカースタジアムでの爆弾テロは、警備員に入場を阻止されたため、犯人が場外で自爆しましたが、もしこれが実行されていれば、死者は200人を超えていたはずです。

 シリアを拠点とする過激派組織IS(イスラム国)が「フランス軍の空爆に対する報復」と犯行声明を出しましたが、犯行グループはシリア人ではなく、ベルギー生まれの移民の若者たちでした。ベルギー南部はフランス語圏で、EU加盟国フランスとの国境はフリーパスです。

 射殺された主犯格のアバウド容疑者(27)はモロッコ系移民の2世で、2013年にシリアへ渡り、ISの戦闘員になっています。ISの主力はこのような傭兵たちで、フランスからは700名以上が渡航し、傭兵になっています。

 1月7日、預言者ムハンマドの風刺画をたびたび掲載してきたパリの新聞社シャルリー・エブド紙が襲われ、編集者ら12人が射殺されました。この事件の犯人もアルジェリア系移民2世の兄弟でした。

 半世紀以上にわたる欧州諸国の移民政策の失敗が、今回の惨劇をもたらしたというべきでしょう。

ヨーロッパの移民問題はなぜ深刻化したのか?


欧州への難民流入ルート(『ニュースの"なぜ?"は世界史に学べ』より)

 そもそもなぜ移民が発生するのでしょうか。

「アラブの春」以降、混乱が続くアラブ諸国では、庶民の生活は困窮し、飯を食えない人が急増しました。

 食えない人が手っ取り早く稼ぐ方法は、ヨーロッパ諸国への「出稼ぎ」です。イギ リスの植民地だったエジプト人は英語が話せます。アルジェリア人やチュニジア人はフランス語ができます。言葉の壁がないうえに、地理的にも近いので、移民としてどんどん船でヨーロッパに渡っていくのです。

 さらには、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国からも、北アフリカ経由でヨーロッパへ不法移民が押し寄せています。密航船は、モロッコからスペインに渡るルートと、チュニジアからイタリアに渡るルートがあり、決死の覚悟で地中海を渡ってきます。

 北アフリカからの移民は、1960年代からすでに活発でした。当時はまだヨーロッパの景気が良かったので、各国は合法的に移民労働者を受け入れ、仕事もいっぱいありました。パリやローマの郊外に、移民向けの集合住宅が大量につくられました。

 現在でもローマに行くと、「ここは本当にローマ?」と疑うほど人種のるつぼです。 少し裏道に入ると、1ブロック全体が黒人という地域もあります。フランスも人口の約1割がイスラム教徒ですし、2009年に、イギリスで生まれた男の子の名前でいちばん多かったのが「ムハンマド」でした。イスラム教徒の出生率が高いからです。

 石油危機(1973年)以降、ヨーロッパは慢性的な不景気に陥り、仕事が減っていきました。にもかかわらず、出稼ぎでやってきた移民たちはそのまま居座り、家族を呼び寄せるケースがほとんど。大きな社会問題となっていったのです。

 パリ近郊の移民団地では、失業者の急増により極度に治安が悪化したうえ、暴動も相次ぎます。この結果、もともと住んでいたフランス人が逃げてしまうという事態に陥りました。こうした現象がヨーロッパの各地で発生したのです。

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ニュースの"なぜ?"は世界史に学べ
日本人が知らない100の疑問
茂木 誠 著



茂木 誠 (もぎ まこと)
駿台予備学校世界史科講師。
東京出身。大学在学中から塾で教壇に立ち、気がつけば駿台の講師になる。
iPadを駆使した視覚的講義は、多くの受験生から、圧倒的支持を得ている。「受験生が単語の暗記に追われて、世界史の醍醐味を知らずに受験を終えてしまうのは残念。その責任は、大学入試にある」と語り、細かな知識の暗記ではなく、世界史の「構造」を掴むことをモットーとしている。学習参考書を手掛ける一方、『経済は世界史から学べ!』『世界史で学べ!地政学』など、ビジネスマン向けの世界史学び直しの書籍もベストセラーになる。