カルチャー
2015年12月8日
真珠湾攻撃から74年【2】――その後の勝ち目はあったのか?名著『失敗の本質』に学ぶ
[連載] 「戦記」で読み解くあの戦争の真実【3】
文・常井宏平/監修・戸高一成
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2015年12月8日、真珠湾攻撃から74年を数える。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎著)は、ミッドウェー海戦やガダルカナル島の戦い、インパール作戦など、6つのケーススタディをもとに、日本軍の“失敗の本質”に迫っているが、真珠湾攻撃という日米開戦後のビジョンについてはどう分析、評価しているだろうか?


6つの敗北から「失敗の本質」を探る


『「戦記」で読み解くあの戦争の真実』(戸高一成 監修)より

 『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』は昭和56年(1981)に刊行されて以来、現在まで読み継がれているベストセラーである。戦史研究に従事する防衛大学校の研究者と、組織論の研究者による共同研究によって生まれたものであり、模索をしながら作り上げた。

 第1章ではノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル島の戦い、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦と、第二次世界大戦における日本の敗戦を取り上げ、負けた本質がどこにあるのかを分析している。そして第2章では、6つの敗戦に共通する日本軍の特性や傾向をとらえ、現代の組織一般にとっての教訓あるいは反面教師として活用するのが最大の狙いである。

 出版当初は著者たちも売れるとは思っていなかったようだが、戦時中の軍部の失敗要因が現代にも通じることから、期待以上の反響を呼んだ。勝間和代(著述家・評論家)や新浪剛史(サントリー社長)など著名人も本作を推薦しており、ビジネスなどの場面で参考にする人も多い。

 本作品では、「大東亜戦争(戦場が太平洋地域にのみ限定されていなかったという意味で、本作品ではこの呼称を用いる)は、客観的に見て、最初から勝てない戦争だった」という前提のもと、分析を行っている。その理由について、本作品では次のように述べられている。

 大東亜戦争での日本は、どうひいき目に見ても、すぐれた戦い方をしたとはいえない。いくつかの作戦における戦略やその遂行過程でさまざまの誤りや欠陥が露呈されたことは、すでに戦史の教えるところである。開戦という重大な失敗、つまり無謀な戦争への突入が敗戦を運命づけたとすれば、戦争遂行の過程においても日本は各作戦で失敗を重ね、敗北を決定づけたといえよう。

 軍隊とは合理的・階層的官僚制組織のもっとも代表的なもので、戦前の日本でも合理性と効率性を追求した官僚制組織の典型であった。だが大東亜戦争という組織的状況を果たす場面において、日本軍は合理性と効率性に相反する行動をとっていた。本作品では、こうした特性や欠陥が日本の組織一般にもあることを示唆している。 つまり、日本軍の問題は、現在の日本全体を覆う問題とつながっているというのだ。






「戦記」で読み解くあの戦争の真実
日本人が忘れてはいけない太平洋戦争の記録
戸高 一成 監修



戸高一成(とだかかずしげ)
呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)館長。1948年、宮崎県生まれ。多摩美術大学卒業。財団法人史料調査会主任司書、同財団理事、厚生労働省所管「昭和館」図書情報部長を歴任。著書に「戦艦大和復元プロジェクト」「戦艦大和に捧ぐ」「聞き書き・日本海軍史」「『証言録』海軍反省会」「海戦からみた太平洋戦争」「海戦からみた日清戦争」「海戦からみた日露戦争」。編・監訳に「戦艦大和・武蔵 設計と建造」「秋山真之戦術論集」「マハン海軍戦略」。共著に「日本海軍史」「日本陸海軍事典」「日本海軍はなぜ誤ったか」。部分執筆としてオックスフォード大学出版部から発行された「海事歴史百科辞典」全4巻(The Oxford Encyclopedia of Maritime History・2007)に東郷平八郎や呉海軍工廠などの項目を執筆。
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