カルチャー
2015年12月17日
創価学会でさえ退潮の兆しが見えている
[連載] 宗教消滅─資本主義は宗教と心中する─【16】
文・島田裕巳
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現世利益をかなえられなくなった


 それは、2015年の統一地方選挙の結果にも示されていた。
 最近の公明党は、選挙のたびごとに「完勝」を目標に掲げている。完勝とは、候補者を全員当選させることで、しばらくの間はそれを実現していた。

 ところが、2回に分けて行われた2015年の統一地方選挙では、前半では大阪市議会で一議席を落とし、後半では松戸市議会と板橋区議会でそれぞれ一議席を落としている。しかも、世田谷区と渋谷区では最下位当選した候補者がいて、世田谷では次点との票差が13票、渋谷では10票だった。両方とも落選していたもおかしくはなかった。

 完勝という試み自体が難しいとも言えるが、公明党では、組織選挙で臨み、綿密な票割をしている。当然、落選者を出さないように、候補者もぎりぎりまで絞っている。にもかかわらず、完勝が難しくなっているのである。

 しかも、大阪は創価学会の牙城でもあり、1950年代半ばに創価学会がはじめて国政選挙に打って出たときには、当時参謀室長だった池田名誉会長が直々に大阪に出向き、精力的な選挙活動を展開した場所である。大阪を中心とした創価学会は「常勝関西」と呼ばれ、その勢いは本部のある東京をしのぐと言われてきた。
 その大阪で議席を落とすということは、創価学会にとって極めて重要な出来事である。しかも、橋下徹大阪市長が掲げた「都構想」の問題では、創価学会の本部と地元との軋轢が表面化した。そうした事態が生まれるのも、大阪において創価学会の力が衰えてきているからだろう。

 来年には参議院選挙があり、衆議院とのダブる選挙になるのではないかと囁かれている。その際に、公明党がどれだけの票数を稼ぎ出すことができるのかは大いに注目されるところである。それは、今後の創価学会の動向にも影響を与えることになろう。
 創価学会という組織は、まさに高度経済成長が生んだものにほかならない。社会の激動が、ときには過激な行動をとるような新しい宗教を生み出したのである。

 当時の創価学会の指導者が、そうした社会の状況をどれだけ正確に把握していたのかは分からない。しかし、社会の大きな変化が、自分たちの組織の拡大に極めて有利に働いているという自覚はあったに違いない。
 したがって、当時の学会や公明党の幹部は、やがては公明党が議会で多数派を占め、政権獲得も夢ではないと考えていた。

 しかし、学会の拡大は経済成長の賜物であり、高度経済成長に翳りが生まれると、それ以上伸びていくことが難しくなっていった。そうした事態は1970年代に入って顕在化する。

 さらに、経済成長は学会員にも経済的な豊かさをもたらした。それこそが彼らの求めたことでもあったが、豊かになれば、学会員は貧しい時代ほどには活発に活動しなくなる。今、現世利益を求めても、それを創価学会がかなえてくれる時代ではなくなった。
 資本主義社会は、最初新宗教に拡大の余地を与えても、低成長の時代に入ることで、その余地を奪ってしまったのである。






宗教消滅
資本主義は宗教と心中する
島田 裕巳 著



【著者】島田 裕巳(しまだ ひろみ)
現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師、NPO法人葬送の自由をすすめる会会長。学生時代に宗教学者の柳川啓一に師事し、とくに通過儀礼(イニシエーション)の観点から宗教現象を分析することに関心をもつ。大学在学中にヤマギシ会の運動に参加し、大学院に進学した後も、緑のふるさと運動にかかわる。大学院では、コミューン運動の研究を行い、医療と宗教との関係についても関心をもつ。日本女子大学では宗教学を教える。 1953年東京生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究課博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著書に、『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』、『葬式は、要らない』、『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)などがある。とくに、『葬式は、要らない』は30万部のベストセラーになる。生まれ順による相性について解説した『相性が悪い!』(新潮新書)や『プア充』(早川書房)、『0葬』(集英社)などは、大きな話題になるとともに、タイトルがそのまま流行語になった。
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