カルチャー
2016年2月8日
野村克也氏が提言「選手の"しつけ"も監督の仕事」
[連載] 名将の条件――監督受難時代に必要な資質【2】
聞き手・SBCr Online編集部
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前回の記事(『野村克也氏が危惧「セ・リーグ全員40代監督」』)では、急速な世代交代が進んだセ・リーグの監督と球界を憂い、監督に求められる資質について触れた(詳しくは野村氏の最新刊『名将の条件』(SB新書)を参照)。今回は元プロ野球選手が逮捕される大変残念な事件が起きたことを受け、身だしなみなどの社会人としての常識といった野球以外のことを、監督がどこまで指導する必要があるかについて、野村氏に問うた。


子を見れば親がわかる、選手を見れば監督がわかる


「選手のしつけが重要」と語る野村克也氏(撮影:SBクリエイティブ)

 昔、あるプロ野球のスカウトから聞いた話だが、ドラフト候補の選手を獲得するかどうかを検討する際、その子の実力だけでなく、両親のこともチェックするという。どういった家庭環境で育てたのか、あるいは両親も学生時代は何かスポーツに取り組んでいて、身体が丈夫で大きいかといった身体能力の面について調査するだけでなく、「普段から子どもとどう接しているのかをチェックすることが大切なんです」と力説していた。

 たとえば甲子園で活躍した好素材であっても、親の前ではわがままにふるまったり、甘えているような姿を見せるような選手だと、プロに入ってから必ず苦労する。うまくいっているうちはいいが、そんなのはごくわずかな期間にすぎず、いったん壁にぶつかると、困難を乗り越えようとする姿勢に欠けていることが多いのだという。
 そうした気質を持った選手では、うまくいかないことに腹を立てて、やがて自暴自棄となり、せっかくのチャンスをフイにする可能性が高い。

 反対に親の前でも、監督や他の選手と変わらず礼儀正しく振る舞える選手は、見込みがあると判断している。これは、小さな頃から親が厳しくしつけた証でもあり、技術的に未熟でも、プロの世界で揉まれることで、グンとよくなることがあるからだ。

 私の現役時代は、戦争を体験していたせいもあり、早く親から自立したい、あるいは苦労ばかりしてきた親に孝行したいと考えている選手が多かった。だが、今は違う。
 モノは過剰なほどあふれ、会話をしなくても携帯でメールをするだけでコミュニケーションが成立してしまうような時代だ。

 たしかに昔より便利になったことは多いかもしれないが、だからといってそれがすべてよいとも、私には思えない。昔も今も、変わらず大切なのは、親のわが子に対するしつけだ。

「しつけ」をされていない今の選手を監督は指導すべき


 さらに言えば、プロに入団後は、監督の指導が行き届いているか、選手の姿を見ればわかる。茶髪にヒゲ、長髪を許す監督などもってのほかだ。

 日本ハムの中田翔や陽岱鋼らの風貌を見る限り、監督が彼らに対して、野球だけでなく身だしなみまで厳しく指導しているとはとても思えない。チームの中心選手が茶髪や長髪だったりするわけだから、彼らより年下の選手たちは、「先輩たちがそういうスタイルならば」などと、真似をしてしまうだろう。

 今の野球界は、「ただ勝てばいい」「選手には技術指導だけしていればいい」という考え方が蔓延している。本来であれば、野球だけでなく、身だしなみや人に対する気遣いなど、野球人である前に一社会人としての一般常識やマナーを厳しく指導した「人づくり」も、チームのトップである監督は怠ってはならないはずだ。

 だが、現実はどうだろう。巨人を除く球団の選手が、茶髪や長髪、ヒゲは当たり前となってしまい、世の中に通用する秩序が失われようとしている。

髪の乱れは、心の乱れ

 
 「髪の乱れは心の乱れ」と言うが、私は的を射た言い方だと思っている。そもそも親からもらった体を、どうして変えてしまうのだろう。やっていることは整形と変わらない。
 清原和博の現役時代の晩年の姿を見て、子どもたちにどう思われてしまうか、彼自身、一度でも考えたことがあるのだろうか。

 耳にダイヤのついたピアスをして、肌は浅黒くコワモテの風貌を醸し、子どもたちに「マネしなさい」という指導者は、全国に一人もいないはずだ。清原ほどの大選手が、球界から監督やコーチとして一度もお呼びがかからなかったのはなぜかを考えてみれば、その答えは一目瞭然だろう。

 また、ひとたび乱闘劇が起こると、一斉に「子どもの教育によくない」「子どもたちに悪影響を及ぼしかねない」などと非難するのに、こうした事項は子どもたちに悪影響を及ぼさないとでも言うのだろうか。私にはそうは思えない。

 その点を一つひとつひも解いて考えていくと、今のプロ野球選手のほとんどは、家庭や学校で常識やしつけ、マナーなどを教えられていないと考えたほうがよい。現代の若者はすべて親や指導者、すなわち大人が作っているということを、忘れてはならない。

 こうした面まで監督が指導しなければならないというのは、何とも情けない限りだが、野球以外の面まで苦言を呈することができないようでは、いい指導者とは言えないだろう。

(了)
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名将の条件
監督受難時代に必要な資質
野村 克也 著



野村 克也(のむらかつや)
1935年生まれ。京都府立峰山高校を卒業し、1954年にテスト生として南海ホークスに入団。現役27年間で、歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王など、その強打で数々の記録を打ち立て、不動の正捕手として南海の黄金時代を支えた。「ささやき戦術」や投手のクイックモーションの導入など、駆け引きに優れ工夫を欠かさない野球スタイルは、現在まで語り継がれる。70年の南海でのプレイングマネージャー就任以降、四球団で監督を歴任。他球団で挫折した選手を見事に立ち直らせる手腕は「野村再生工場」と呼ばれる。 ヤクルトでは「ID野球」で黄金期を築き、楽天では球団初のクライマックスシリーズ出場を果たすなど輝かしい功績を残した。インタビュー等でみせる独特の発言は「ボヤキ節」と呼ばれ、 その言葉は「ノムラ語録」として野球ファン以外にも親しまれている。