カルチャー
2016年3月11日
「保育園落ちた日本死ね」から考える「子どもファースト」な社会
[連載] 自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【1】
小学校では待機児童がないのに、なぜ保育園ではできないのか
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「保育園落ちた日本死ね」と書かれたブログが共感を呼び、安倍首相の掲げる「一億総活躍社会」と相反する待機児童の問題が国会でも争点となっている。「少子化問題」と「待機児童問題」。数多くの難題を抱え「課題先進国」となってしまった日本の未来と、今後の私たちの働き方について、出口治明 氏と島澤諭 氏に語っていただいた(出典:『自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議』)


「待機児童問題」が起きているのは日本ぐらい。出生率の向上には「働き方」の改革が必須


「待機児童ゼロ」を目指す安倍首相が育児施設(埼玉県和光市)を視察。しかし「待機児童問題」が起きているのは日本に特有な問題。「子どもファースト」な社会への道のりは?(c)共同通信社

出口 失われた20年で、世帯の平均年収が減少していることもあり、奥さんも働きに出ている家庭が増えていますが、「共働きだと子育てにも支障が出るので、出産をためらう女性も少なくない」という主張もあります。そもそも共働きなら男性も育児に参加するのが当たり前ですが、「男性は外で長時間労働、女性は家で家事・育児・介護」という性分業の名残りもあります。
 そこで、他の先進国と同じように原則残業を禁止し、家事・育児・介護を社会全体がサポートしつつ、男女が等しく分担するという新しい文化風土をつくり上げていく必要性が高まっています。残業を禁止すればG7で最低の労働生産性も上がりますから、メリットは大きいはずなのですが。

島澤 他の先進国では「女性が外で働いていても出生率は必ずしも下がらない」というのが常識ですから、外で働きたい、外で働かなければならない女性をバックアップする仕組みをいち早く整えないといけませんね。

出口 OECD加盟国の中で、保育園など子どもの受け入れ施設が足りない「待機児童問題」が起きているのは日本ぐらいです。先生や教室が足りないといって小学1年生を待機させた例は見当たらないので、法律で義務付ければすぐにでも出来るはずです。
 東京の住宅街では、保育園を建てようとすると「子どもがうるさいから昼寝ができなくなる」と文句を言う住民もいるようですが、「子どもは社会の宝」という大原則を踏まえれば、とんでもない話です。高齢者に関する問題も山積みですが、まずは子どもを優先するという認識を社会に定着させていかないといけません。
 洋の東西を問わず、沈む船からおろしたボートには、「子ども→女性→男性→高齢者」の順に乗せるのです。「子どもファースト」は人類共通の大原則なのです。
 また、出生率を上げるには、バリアフリーなど他にも子育てがしやすいインフラの整備が欠かせません。それなりに大がかりな事業になるので政治家が積極的に動かないといけませんが、どうも動きが鈍いように感じます。
 僕は「国会議員は一度、10キロの石を乗せたベビーカーを押して自分で都内を1時間でいいから公共輸送手段を使って移動してみるべきだ」と思っています。実際に体験すれば子育ての大変さ、そしてバリアフリーが不十分であることが、自分事として実感できるはずです。

島澤 現在の日本は、子どもの貧困が社会問題となるくらいの状況ですから、「子どもファースト」な社会が実践できているとはとても言えませんね。
 本書が刊行された後に、これは湧きおこったことですが「保育園落ちた日本死ね」と書かれたブログが多くの共感を呼び、安倍首相の掲げる「一億総活躍社会」と相反する待機児童の問題が国会でも争点となり議論されるようになりました。まさに、小学校入学に対して待機させたという例はないのに、保育園入園ではなぜそれができないのか――このあたりの事情についてはNPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんが、「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由」に書かれている通りです。

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自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議
出口治明・島澤諭 著



出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。

島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。