カルチャー
2016年4月15日
日本の組織に欠けている「ダイバーシティ」って何?
[連載] 自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう【6】
本当は身近なところから始められるダイバーシティ
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「和僑(わきょう)」という生き方


出口 上海やバンコクには、働き盛りの日本人が10万人ぐらい住んでいます。このサイズ(規模)になると子どもや高齢者を含めた日本の都市に直すと20~30万人分程度の購買力があるので、日本人相手でもある程度は商売が成り立ちます。海外に拠点を置いて活躍する日本人は「和僑(わきょう)」と呼ばれており、その数は増加の一途です。この前も講演で呼ばれてバンコクに行ったのですが、彼らは「一流大学を卒業し、一流企業に入社する」サイクルから抜け出た人たちで、とても楽しそうです。彼らと話をしていると、これからは生き方の選択肢がたくさんあるということを実感させられます。

島澤 スポーツでも、野球なら最近はメジャーで活躍する選手が増えています。

出口 なかには「日本のプロ野球を見捨てた」と非難する人もいますが、彼らはベースボールの本場で日本球界の評価を高め、外貨をたくさん稼いでくれるのだから、素晴らしいと考えるべきです。
 また働き方でいえば、地方に移住して働くという選択肢もあります。僕の友人にイケダハヤト氏という若いジャーナリストがいますが、彼は東京から高知へ移住したあと、売上が3倍になったそうです。メディアはネガティブな報道などで若者の不安を煽りがちですが、健康で働く意欲さえあれば、割とどうにでもなることを理解しておくべきです。
 それから選択肢でいえば、中央官庁を辞めて奈良の大学に入った学生のように、大人になってから大学や大学院に入り直して学ぶという道もあります。

島澤 現在の日本の大学や大学院は、18~19歳で受け入れて、22~25歳で送り出すことを前提にしたカリキュラムです。そのため、40~50歳の人が入り直しても体育を絶対に選択しないといけないとか、学び直す世代には厳しいカリキュラムになっているので、その辺は変えていかないといけません。

出口 そもそも大学の願書に年齢を書かせるのがナンセンスです。大学というのは年齢による入学制限がなく、学びたいときに学びたい人が入るのが本来の姿。先進国では大学入学者の中で25歳以上の人が占める割合が平均して2割以上ありますが、日本はわずか1.7%しかいません。これではダイバーシティ(多様性)は生まれません。
 僕の友人が40歳を過ぎてから「語学を学びたい」といって、センター試験を受けて外国語大学に入りました。周囲からは奇異の目で見られたそうですが、世界的に見ればよくある光景です。
 ダイバーシティは、年齢差でも生まれます。例えば、アメリカでは大学内に設けられる「カレッジリンク型」の老人ホームが増えていますが、なぜ大学内に建てるのかというと、大学側が「シニアが所有するエネルギーは、今後増加する唯一の天然資源」と考えているからです。最高級の老人ホームなので、入居者も大企業などの幹部経験者ばかりです。そのため知的好奇心が旺盛で、授業も積極的に聴講しますが、そうすると先生が「今日聴講に来ておられる◯◯さんは、元△△社のCEOだった方なので、意見を聞いてみましょう」となり、若い学生との交流が生まれます。これが大学側の狙いでもあるようです。
 またシニアにとっても、それが最高の生きがいになっているそうです。人間にとって次の世代を育てることは本当に楽しいことですから。

島澤 自分の経験や得たものを若い世代に伝えられるのは、シニアにとっても良いことですね。

出口 高齢者しかいないコミュニティは楽しくないですから、ダイバーシティで若い世代といっしょにいるほうが、シニアにとっても楽しいはずです。






自分の半径5mから日本の未来と働き方を考えてみよう会議
出口治明・島澤諭 著



出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。日本興業銀行(出向)、生命保険協会財務企画専門委員会委員長(初代)、ロンドン事務所長、国際業務部長などを経て、2006年に日本生命保険相互会社を退職。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを経て、現在、ライフネット生命保険株式会社・代表取締役会長兼CEO。

島澤諭(しまさわ・まなぶ)
東京大学経済学部卒業。1994年、経済企画庁(現内閣府)入庁。2001年内閣府退官。秋田大学教育文化学部准教授等を経て、2015年4月より中部圏社会経済研究所経済分析・応用チームリーダー。この間、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、財務省財務総合政策研究所客員研究員等を兼任。専門は世代間格差の政治経済学。
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