カルチャー
2016年6月17日
北朝鮮・核ミサイルの標的は「北京」
[連載] 北朝鮮「核ミサイルの驚異」【2】
文・かのよしのり
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2004年まで陸上自衛隊の武器補給処技術課研究班に勤務し、武器のスペシャリストとして『重火器の科学』『ミサイルの科学』などの多数の著書をお持ちの、かのよしのりさんによると、北朝鮮の核ミサイルの標的は、東京やワシントンである前に「北京である」といいます。なぜ、アメリカや日本ではなく、中国なのか? その理由を、お聞きしました。前回の記事(「事実上の弾道ミサイル」とは何か?)は、こちら


北朝鮮の核ミサイルはどこを狙っているのか?


『ミサイルの科学』(かのよしのり 著)

 昨今、「北朝鮮の核ミサイルが日本にとって大きな脅威」と言われています。もっとも、筆者はそういう主張を聞くと首をかしげます。日本が核ミサイルで狙われているのは今にはじまったことではありません。何十年も前、冷戦時代はソ連(現ロシア)の核ミサイルで狙われてきたのだし、20世紀末からは中国の核ミサイルにも狙われてきました。北朝鮮の核ミサイルより、ソ連(現ロシア)や中国の核ミサイルのほうが何百倍も脅威ではありませんか。

 それをことさら無視して、北朝鮮の核ミサイルだけをあげつらうのは「何かおかしい」と筆者は思います。もちろん「北朝鮮の核ミサイルが脅威でない」とはいいませんが、北朝鮮の核など、「日本人に対してロシア人が散弾銃を、中国人が短機関銃を向けている状態に、22口径ピストルを持った朝鮮人が加わった」というようなものでしょう。もちろん、「日本人が日本刀を持っているのに対し、今まで朝鮮人は短刀しか持っていなかった。それが拳銃を持つようになった」のだから、脅威が増大したことには間違いありませんが。

本心では日本や米国から援助してもらいたい


 それにしても、なぜ北朝鮮は国民の生活を犠牲にしてまで、核ミサイルの開発をしているのでしょうか? 実は「それこそが北朝鮮が生き残り、繁栄をつかむために必要なこと」と考えているからです。朝鮮戦争は「休戦」しているだけで終わってはいません。それどころか北朝鮮は米国や日本から国家として認められてさえいません。

 北朝鮮は経済封鎖されています。北朝鮮が発展できないのは北朝鮮の体制が悪いだけではなく、いまだに戦争が終わっておらず、経済封鎖を受けていることにも大きな原因があります。ですから、北朝鮮は自国を発展させるために、米国や日本から「国」として認められ、「休戦」を「終戦」にし、日本や米国に投資してもらえるようになりたいのです。

 以前ならソ連(現ロシア)や中国からの援助もありましたが、今はそれがまったくといっていいほどなくなりました。それどころか冷戦時代には、ソ連(現ロシア)や中国は、韓国を国として認めず、「北の平壌(ピョンヤン)政府こそ朝鮮半島の唯一の正統な政府」とみなしてきたのに、冷戦終結後は韓国と国交をもつようになりました。これは北朝鮮にとっては「裏切り」とさえ言えるでしょう。

 ソ連(現ロシア)や中国が韓国を国として認めたのなら、逆に北朝鮮は「米国や日本から国として認められたい」と考えて当然です。かつて、韓国の大統領が李承晩(イ・スンマン)だった1950年代、韓国は北朝鮮より貧しい国でした。それが朴正熙(パク・チョンヒ)時代、日本からの援助によって「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展をとげました。「ならば、北朝鮮も日本と国交を結び、日本の援助で発展したい」と考えるのは自然なことでしょう。

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ミサイルの科学
現代戦に不可欠な誘導弾の秘密に迫る
かのよしのり 著



かのよしのり
1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年、定年退官。著書に『ミサイルの科学』『拳銃の科学』『重火器の科学』『狙撃の科学』『銃の科学』(サイエンス・アイ新書)、『鉄砲撃って100!』『スナイパー入門』(光人社)、『自衛隊vs中国軍』(宝島社)、『自衛隊89式小銃』『中国軍vs自衛隊』(並木書房)などがある。