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2016年6月23日
英国離脱!? EUが抱える根深すぎる問題──世界史に学ぶ、国際ニュース
文・茂木 誠
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2016年6月23日、イギリスのEU離脱の是非について国民投票が行われます。投票は、日本時間24日午前6時に終了し、24日15時頃に結果が発表される見込みです。離脱ということになるとユーロ加盟国だけでなく、世界経済への影響は計り知れませんが、長く続く移民問題、昨年のギリシャ危機など、なぜEU内ではごたごたが絶えないのでしょうか。その理由を、有名予備校の人気講師でSB新書『ニュースの"なぜ?"は世界史に学べ』の著者である茂木 誠さんに解説いただきました。


『ニュースの"なぜ?"は世界史に学べ』(茂木 誠 著)

 「これまでの世界を振り返ってみると、主な紛争は、異なる文明圏の『境目』で起きてきた」

 そう論じたのが、アメリカの国際政治学者サミュエル・P・ハンティントンの『文明の衝突』という名著です。

 たとえば、欧米の「キリスト教文明」とアラブの「イスラム文明」が接する境目で紛争が起きてきました。古くは十字軍にさかのぼり、現代の湾岸戦争やイラク戦争も、まさにキリスト教文明とイスラム文明の対決のように見えます。

 また、隣国同士であるインドとパキスタンは3度にわたる印パ戦争を繰り返し、現在も対立していますが、これは「イスラム文明」と「インド(ヒンドゥー)文明」のぶつかり合いによるものです。あるいは、中国が抱える新疆ウイグル自治区の民族問題も、「中華(中国)文明」と「イスラム文明」という異なる文化圏のぶつかり合いが背景にあります。

「ヨーロッパ」は、いつ生まれたのか?


 ヨーロッパが生まれたのは、古代ローマ帝国が崩壊したあとです。

 ローマ帝国の領土は広大でした。イタリアを中心として、東はトルコとシリアなど中東諸国、南は地中海に面した北アフリカ諸国、北はアルプス山脈を越えてカエサル(シーザー)が遠征を行い、フランスとイギリス南部にまで勢力を拡大しました。西ヨーロッパと北アフリカの全域を支配下に置いたのです。

 そのためヨーロッパ人もいれば、北アフリカの人もいる、という大変な多民族国家でした。また、ローマ帝国時代の宗教は多宗教だったので、特定の宗教を押しつけることもなく、オープンな国として、なんとか成り立っていました。

 ところが、領土を広げすぎると、大きな問題が起きます。
 領土を維持するための軍事費がかさみ、それをまかなうために増税を繰り返すという問題です。この結果、経済活動自体が収縮し、税収は減少、軍事費を維持できなくなりました。そして各地の反乱や異民族の侵入に対処できなくなり、ローマ帝国全体が疲弊し、崩壊への道をたどることとなったのです。

 広大な領土を支配するあらゆる帝国は、ローマ帝国と同じ運命をたどることになります。現在のアメリカも、まさに衰退期に入ったということができるでしょう。

 ヨーロッパに最初に侵入してきたのは、アルプスの北に住んでいたゲルマン人。いわゆる民族大移動ですね。その後、ゲルマン人同士の抗争の末に、フランク王国が西ヨーロッパを統合しました。9世紀、日本では平安京に遷都した頃です。
 このフランク王国が採用したのが、西方キリスト教のローマ・カトリック教会とラテン文字(ローマ字)でした。

 フランク王国はまもなく仏・独・伊の3国に分裂し、西ヨーロッパの統合は失われます。特に独・仏間では戦争が繰り返され、2つの世界大戦の要因にもなりました。
 この反省をふまえて、第二次大戦後に西欧を再統合しようとした試みが、EC(欧州共同体)であり、現在のEUです。統一ヨーロッパとは、20世紀に復活したフランク王国なのです。

 ゲルマン人の次に侵入してきたのが、アラブ人です。ローマ帝国の東側と南側、シリア・エジプトあたりから北アフリカを西進してモロッコ、さらにイベリア半島(スペイン)を征服し、フランク王国諸国を南から脅かします。この結果、「地中海」がヨーロッパ文明とアラブ(イスラム)文明を分ける「境目」になったのです。

 ローマ帝国は5分の1程度まで領土の縮小を余儀なくされますが、現在のギリシアを中心に生き残ります。これを東ローマ帝国あるいはビザンツ帝国といいますが、このビザンツ帝国が採用したのが、キリスト教の東方正教会とギリシア文字です。

 こうしてフランク王国が西ヨーロッパ諸国、ビザンツ帝国が東ヨーロッパ諸国の原型となりました。ロシアもギリシアも東方正教会を採用し、西欧文明とは別の道を歩むことになるのです。

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ニュースの"なぜ?"は世界史に学べ
日本人が知らない100の疑問
茂木 誠 著



茂木 誠 (もぎ まこと)
駿台予備学校世界史科講師。 東京出身。大学在学中から塾で教壇に立ち、気がつけば駿台の講師になる。 iPadを駆使した視覚的講義は、多くの受験生から、圧倒的支持を得ている。「受験生が単語の暗記に追われて、世界史の醍醐味を知らずに受験を終えてしまうのは残念。その責任は、大学入試にある」と語り、細かな知識の暗記ではなく、世界史の「構造」を掴むことをモットーとしている。学習参考書を手掛ける一方、『経済は世界史から学べ!』『世界史で学べ!地政学』など、ビジネスマン向けの世界史学び直しの書籍もベストセラーになる。