ビジネス
2016年7月21日
日本企業の「先送り」体質、そのルーツは旧・日本軍にあった
文・松本利秋(国際ジャーナリスト)
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三菱自動車工業の燃費データ偽造問題、シャープが台湾企業の傘下に入るなど、日本の名門企業の凋落ぶりには驚きを禁じ得ないが、その原因の根底には、企業トップの不決断、先送り体質があり、そのルーツを辿ると、かつての「旧・日本軍」に通じていると、国際ジャーナリストの松本利秋さんは言う。今も昔も「想定外」にまったく対応できない日本企業の体質とは? テレビや雑誌などでコメンテイターとして活躍中で、先頃『なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか──太平洋戦争に学ぶ失敗の本質』を著した松本利秋さんに、最近の日本企業の凋落と、かつての日本軍の組織的欠陥の共通性を考察いただいた。


先送り、不決断...シャープ凋落に見る「経済的合理性」の欠如


『なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか』(松本 利秋 著)

 名門家電メーカーのシャープが台湾の企業に買収され、同じく家電業界老舗の三洋電機も中国の同業者に買い取られ、その名が消えてから久しい。
 原子力発電用原子炉をも製造する巨大企業体である東芝の粉飾決算、ゼロ戦を創った技術をルーツに持つ三菱重工の一部として誕生した三菱自動車工業が燃費データ偽造問題で、ついに日産自動車の配下に入ってしまった。

 1980年代にウォークマンで全世界の若者のライフスタイルを変えたソニーも新しいデジタル時代の潮流には乗れず、ポータブルオーディオではアップルに圧倒されてしまっている。現在ソニーにはかつての勢いが無くなってしまった。

 ここ数年だけでも日本企業の凋落ぶりは目を覆うばかりだが、この体たらくは今に始まったことではない、1990年代から2000年代前半にかけてには日本長期信用銀行が驚くほどの低価格で外資に叩き売られ、山一證券も倒産の憂き目にあっている。

 こうした企業を見てみると、その根底にはほぼ一貫して企業トップの無責任、状況への即応力不足、不決断、先送り、硬直した組織観などが横たわっている。それも、長い歴史と伝統、卓越した技術力を備えた名門と呼ばれるような巨大企業になればなるほど内部ではさまざまな軋轢が起こり、経済的合理性をないがしろにしてしまう要因となっているようだ。

 これらの実例からすると俄かに劣化したのではなく、日本企業ははるか以前から組織の内部に何らかの重大な欠陥を抱えながら現在まで続いてきたと見るのが自然だろう。現在起きているさまざまな不祥事は、その事実が状況の変化に耐え切れず、一気に噴き出してきたと言える。

 その中でも重大な事象と思われるのが、「硬直した思考形式」で「想定外の事態」に対応できていないことであろう。



なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか
太平洋戦争に学ぶ失敗の本質
松本 利秋 著



松本 利秋(まつもと としあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了。政治学修士。国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)、『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』『日本人だけが知らない「終戦」の真実』(小社刊)など多数。
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