カルチャー
2016年11月14日
舛添氏、ショーンK氏、野々村元県議...。なぜ「自分を盛る人」が増えているのか?
文・和田秀樹(精神科医)
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演技性パーソナリティ障害とは何か?


 演技性パーソナリティ障害というのは、パーソナリティ障害という精神障害の一つです。

 パーソナリティ障害は、その名の通りパーソナリティ、つまり認知のパターンや感情性、対人関係機能などから来る様々な問題によって社会や周りへの適応が困難になるとされているものですが、アメリカ精神医学会が作成した精神障害の診断マニュアル(DSM-5)では、「境界性パーソナリティ障害」「反社会性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」「演技性パーソナリティ障害」「強迫性パーソナリティ障害」「回避性パーソナリティ障害」「依存性パーソナリティ障害」......など、10種類に分類されています。

 世間を騒がせた先ほどの三人が該当するのではないかと指摘された演技性パーソナリティ障害は、

「自分が注目の的になっていないと楽しくない」
「他人とのやりとりが不適切なくらい誘惑的であったり挑発的であったりする」
「浅薄ですばやく変化する情動表出」
「過度に印象的だが内容のない話し方をする」
「自己演劇化」
「誇張した態度を取る」

といった特徴が見られるものです。

 ごく簡単に言うと、演技性パーソナリティ障害の人は「自分が主人公でいたい」わけですが、現実的な話をすれば、精神科などの専門家が直接本人に会って診察してみなければ、パーソナリティ障害という精神疾患に当てはまるかどうか正しい診断を下すことはできません。

 しかも専門医でも一度診察したぐらいではなかなか判断がつかないわけですから、メディアというイメージづくりに長けた媒体を通した情報のみをもってして彼らをパーソナリティ障害という精神疾患に罹っていると断定することはできないのです。

 さらに言うと、いくらパーソナリティが偏っていても、それが本人に苦痛をもたらしていたり、社会的、職業的な障害が引き起こされていない限り、パーソナリティ障害と診断してはいけないことになっています。

 とはいえ、パーソナリティ障害という心の病までには至っていないものの、それに近いパーソナリティ傾向を持つ人たちがたくさんいることは間違いないようです。

 たとえば先ほどのDSM-5には境界性パーソナリティ障害の診断基準の一つとして「不適切で激しい怒り、または怒りの制御困難(例、しばしばかんしゃくを起こす・いつも怒っている・取っ組み合いのケンカを繰り返す)」という特徴が挙げられています。私たちの周りを見渡しても、きちんと社会生活を送りながらも怒ってばかりいる人や何かにつけて怒りっぽい人が、も一人や二人は当たり前のように存在しているのが現実です。

 つまり、精神疾患とまでは言えないものの、パーソナリティ障害の特徴に当てはまる要素がその人の性格の中に見受けられるということはごく普通にあり得るわけです。

 それと同じように、先ほど例に挙げた小保方氏、佐村河内氏、野々村氏についても、演技性パーソナリティ障害という心の病気であると断定することはできませんが、メディアから流れる情報から、演技性パーソナリティ障害の特徴に当てはまる要素が彼らの言動の中に見受けられると言うことができるわけです。



自分を「平気で盛る」人の正体
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『医学部の大罪』(ディスカヴァー携書)、『東大の大罪』『この国の冷たさの正体 一億総「自己責任」時代を生き抜く』 (以上、朝日新書)、『テレビの大罪』『学者は平気でウソをつく』(以上、新潮新書)、『「自己愛」と「依存」の精神分析 コフート心理学入門』 (PHP新書)、『人と比べない生き方 劣等感を力に変える処方箋』『だから医者は薬を飲まない』(以上、SB新書)など多数。
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