カルチャー
2016年11月11日
「1日1万歩」が実は体に毒ってホント?──5千人・15年の追跡調査でわかった「奇跡の研究」とは
文・青栁 幸利
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運動しすぎると免疫力が下がる!


 「歩けば歩くほど健康になる」という認識もまた、大きな間違いです。

 実は運動のしすぎは、健康効果がないどころか、健康を害することになります。なぜなら、免疫力が低下するからです。

 免疫については世界各国で研究が進められ、1980年代後半あたりからさまざまなことが明らかになりました。その1つが「スポーツをする体力と病気を予防する体力は別物」ということです。

 かつて免疫研究の第一人者であるオーストラリアの研究家が、自国の競泳オリンピック選手を対象に調査を行ったことがありました。彼らの筋力、持久力、心肺機能、ヘモグロビンの数などは非常に素晴らしい結果なのに、一方で風邪などの病気にかかりやすい体でもあったのです。理由は、免疫力の低下。

 世界レベルのアスリートたちは、日々、ハードなトレーニングをしています。これまでの歩数論に偏ったウォーキングがあてにならないのは見てきたとおりです。では、いったい、どうすればよいのでしょう。

 実は生涯の健康を維持するための、歩くときの「指標」があります。
 その考えとやり方をこれから紹介しましょう。

 健康に対する不安を数え上げれば、キリがありません。
 こういったすべての病気に対して「ある指標に基づいたウォーキング」が効果的であるということが、研究を通じてわかってきました。ひとことでいえば、やりすぎでもなく、足りなすぎでもない「ほどほどの運動」。

 「やりすぎは体に毒」なのです。
 だからといって、「足りなすぎても体に毒」。

 犬の散歩やスポーツクラブでの運動で疲れてしまい、それ以外の時間にぐったりしていては、健康を害してしまうのです。

 では「ほどほど」の運動とはどんなものか。
 「ほどほど」といっても感覚値ではありません。しっかりとした指標があります。「歩数」でも、「消費カロリー」でもありません。では、いったいどんなものでしょうか? それは......

・1日24時間の歩数=「8000歩」
・中強度の運動を行う時間=「20分」

の2つを組み合わせた数字です。

「8000歩/20分」

 これが、私が研究をもとに導き出した健康長寿を実現する「黄金律」であり、あなたの健康を維持するための重要な数字なのです。



やってはいけないウォーキング
青栁 幸利 著



青柳 幸利(あおやぎ・ゆきとし)
東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了、Doctor of Philosophy(Ph.D.:医学博士)取得。カナダ国立環境医学研究所温熱生理学研究グループ・博士号取得後研究員、奈良女子大学生活環境学部・助手 及び大阪大学医学部・非常勤講師などを経て、東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム・副部長。東京農工大学大学院連合農学研究科・非常勤講師及び星城大学大学院健康支援学研究科・非常勤講師などを兼任。高齢者の運動処方ガイドラインの作成に関する研究に従事し、種々な国家的・国際的プロジェクトの主要メンバーとして先進諸国の自治体における老人保健 事業等の展開を支援している。
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