カルチャー
2017年1月10日
ダイエットも恋愛も「諦め方」が肝心――ポジティブに「あきらめる」仏教の知恵
文・名取芳彦(密蔵院住職)
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「諦める」という言葉は、最後までやらずに途中で投げ出すという意味で使われがちです。でも、仏教では、必ずしもネガティブな言葉ではなく、物事の本質を明らかにする、つまり「明らめる」の意味を含めた前向きな言葉なのです。悩みや境遇、負の感情などを積極的に「諦める」ことで、心の重荷は軽くなり、新たな一歩を踏み出すことができ、人生は好転するのです。数多くのベストセラーを執筆し、物事や自分の心のあり方をよく観察する必要性を説いている密蔵院住職・名取芳彦氏(ほうげん和尚)に、「あきらめる」ときの心の持ち方をお聞きしました。


「諦める」も「明らめる」も語源は一緒!


 最後までやらずに途中で投げ出すことを「あきらめる」(諦める)と言います。
 なんとも情けなく、切なく、やる瀬なく、虚しさを感じる言葉で、できれば使いたくない言葉の一つでしょう。
 ところが「諦」を漢和辞典で引くと素晴らしい意味ばかり。悪い意味は一つもありません。どうやら、私たちが思っているほど諦めるのは、悪いことではなさそうです。

 もともと、「諦」の「旁」(つくり)の帝は、三本のたれた線をひとまとめに締めたさまを表す象形文字で、そこから出てくる意味が、

 一、つまびらかにする。いろいろな観察をまとめて、真相をはっきりさせる。
 二、まこと。全体をとりまとめて見通した真相。

 と、あります。
 日本語では「明らかにする」に近いでしょう。明るく照らされて物の様子がはっきりすることから、「真相が明白になる」の意味でも使われるように、「明らか」は疑いのないほどはっきりしているさまを表します。ここから、サンスクリット語のサティアの訳語として、

 三、(仏教語としての)真理。また、悟り。

 が出てきます。

 日本語でも「諦める」と「明らめる」の語源は同じ。もともと私たちは、物事の本当のあり方を「明らか」にするから「諦められる」という意識が今より強く働いていたのです。年は取りたくないと、いくら願っても「生まれた以上は年を取らなければならない」のが"明らか"なので、「年寄りになるのはしかたがない」と"諦め"られます。

 近世になって「物事のあり方を明らかにして」という前提が消えてしまい、単に断念し放棄するのを、「諦める」と言うようになりました。言葉の変化はいつの世にも起きますが、「明らか」にすればキッパリ潔く「諦められる」のに、「明らかにして」という前提をほとんど意識しなくなったのは、もったいないと思います。

人生で本当に大切なのは、物事の本質を「あきらめる」こと


 一方、仏教では、お釈迦さまが明らかにした基本的な教えを四諦(したい)と言うくらいで、現在でも「諦める」と「明らめる」は、ほぼ同じ意味で使われています。
 では、きれいさっぱり諦めるために、何をどのように明らかにしていけばいいのでしょう。

 それには、物事や自分の心のあり方をよく観察するのが一番です。
 予定していた屋外イベントが雨で中止。その時、行きたかったイベントを諦めるには、「天気は変えられない」と明らかにする必要があります。そうしないと、「どうして雨なんか降るのだ」「せっかく準備したのに」と愚痴を言い続けることになります。

 私の経験上、ダイエットを諦める時に明らかにすべきなのは、

「私は食べるために生きているのだ。今は食欲のほうが勝っているのがわかった」
「『男は死にたくないからやせる。女は死んでもいいからやせる』とはよく言ったもの。今の私には、体のダイエットより心のダイエットをするほうが大切だ」


ということです。
 これを明らかにしておけば、「ダイエットできない自分はダメだ」と自己嫌悪に陥ることもなく、人から「根性なし」と非難されても堂々としていられます。

 物事のあり方をよく観察しても、なお諦められない人がいますが、そういう人は、物事が明らかになるまで、とことんやってみるしかありません。挫折するまで、クタクタになるまで、やってみるのです。

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あきらめる練習
名取 芳彦 著



名取 芳彦(なとり ほうげん)
1958年、東京都江戸川区生まれ。密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。密蔵院写仏講座・ご詠歌指導など、積極的に布教活動を行っている。著書にベストセラーとなった『般若心経、心の「大そうじ」』のほか、『「正しいこと」にとらわれなくても大丈夫』『気にしない練習』『ためない練習』(以上、三笠書房)、『3日間で驚くほど心が晴れる本』『煩悩力』(以上、PHP研究所)など多数ある。日本テンプルヴァンHPにて「名取芳彦のちょっといい話」(全200話)も好評。