カルチャー
2017年3月8日
人間そっくりなのに怖い? ロボット開発の壁「不気味の谷」とは
『ロボット解体新書』より
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「マツコロイド」を監修した石黒教授の取り組み


 ヒューマノイド研究の第一人者としては、大阪大学の石黒浩教授が知られています。テレビでお馴染みの「マツコロイド」も石黒氏の監修によるものです。

 その石黒氏の「知能ロボット学研究室」(通称、石黒研究室)とATR(国際電気通信基礎技術研究所)のIRC知能ロボティクス研究所が共同で研究・開発しているアンドロイドが「ジェミノイド F」です。

2012年に高島屋で公開されたアンドロイド「ジェミノイド F」(通称、ミナミ)。(写真提供:株式会社国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所)

 「ミナミ」(通称)は、2012年11月に高島屋大阪店(大阪市中央区)で初公開された、人間の女性そっくりのロボットです。初公開された際は、タッチパネルで入力した質問に対してミナミが返事を返す仕組みで、精巧に創られた姿は肌の質感もリアルで、集まった多くの人たちはその外観に驚きました。

 また、人間が遠隔操作によってミナミを動かして会話をすることもできます。2013年5月にふたたび高島屋に登場したときには、音声認識機能を追加し、簡単な会話ができる機能も搭載されたため、来店した人たちはアンドロイドとの会話を楽しんでいました。

オトナロイドは日本科学未来館で見ることができる。(写真提供:株式会社国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所)

 東京お台場にある日本科学未来館では、実際に見ることができるジェミノイドとして「オトナロイド」と「コドモロイド」が展示されていました。成人女性の見かけと表情、全身に40の自由度をもつ「オトナロイド」は、遠隔操作と音声合成による自律動作に対応しています。また、「コドモロイド」は見かけは子供の姿、全身30の自由度をもつニュースキャスターとして自律的に振る舞い、日本科学未来館に展示中は合成音声で科学ニュースなどをお知らせしていました。

 石黒浩教授は自身にそっくりな「ジェミノイド HI」を開発したことでも注目されています。大阪大学が開発した「HI-4」は遠隔操作型アンドロイドで、コンプレッサーによる16個の空気アクチュエータで16の自由度(頭部:12、胴体:4)を実現しています。石黒浩教授が人間そっくりのアンドロイドを開発する理由は「ロボットらしいロボットだけでなく、人間らしいロボットを用いて、人間のもつ存在感の解明を目的」としています。

石黒浩教授と京都大学大学院情報学研究科の河原たち也教授らが開発した自律対話型アンドロイド「ERICA」(エリカ)。人間そっくりの部分に、あえて人工的なデザインが取り入れられているように感じる。(写真提供:株式会社国際電気通信基礎技術研究所 石黒浩特別研究所)

 すなわち、人間のようなロボットを開発することで人間とは何か、人間の存在とはどういうものか、人の存在感は遠隔地へ伝達することができるか、などの疑問を解明するために研究しているのです。

 石黒浩教授の挑戦はつねに「不気味の谷」と向かい合わせ、いつかこの谷を越える研究なのかもしれません。

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 これから数年は人工知能関連技術が社会に変革をもたらす時代になるともいわれています。それはロボットの能力の飛躍も意味しています。これから先の未来に、ロボットと人工知能がどのように進化していくのか、そして、どのように人間とかかわっていくのか、とても楽しみです。

(了)


ロボット解体新書
ゼロからわかるAI時代のロボットのしくみと活用
神崎 洋治 著



神崎洋治(こうざき ようじ)
ロボット、人工知能、パソコン、デジタルカメラ、撮影とレタッチ、スマートフォン等に詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、ベンチャー企業の取材を中心にパソコンとインターネット業界の最新情報をレポート。以降ジャーナリストとして日経BP社、アスキー、ITmediaなどで幅広く執筆。テレビや雑誌への出演も多数。最近はロボット関連の最新動向を追った書籍を執筆し、ロボット関連ITライターとして活躍中。主な著書に『図解入門 最新人工知能がよ~くわかる本』(秀和システム)、『Pepperの衝撃!』(日経BP)
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