ビジネス
2017年3月16日
海上自衛隊はどうやってアジア太平洋の安全を確保するのか?
文・毒島 刀也
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薄れゆく米軍のプレゼンス(存在感)に対処する


 さて、防衛は常に周辺国と相対的に決まるものです。同盟関係でない限り、どんなに友好的であっても、その国の指導部が入れ替わったら、敵対的に変わる可能性をはらんでいますから、常に相手の能力に対して備えなくてはなりません。

 その意味では日本の仮想敵は中国、ロシア、北朝鮮のみならず、韓国、台湾も含まれます。そしてシーレーン末端までの防衛を言い出すと、経路上にある国家すべても考慮しなくてはなりませんから、きりがありません。そのような面倒なことは世界の海を支配するアメリカに任せ、日本はひたすら自国とその周辺の狭い範囲を考えればよかった面がありますし、自衛隊もその線に沿って整備されてきました。

 しかし、近年の目覚ましい経済発展を背景に、中国軍の防衛費は直近10年で3.4倍、過去28年では44倍に膨れ、その伸びの多くは海空軍への近代装備の整備に費やされています。そして明らかに無理筋な論理で、東シナ海、南シナ海への伸長を図っています。

 これに加えて、アメリカでは2016年1月にオバマ元大統領が「世界の警察官を降りる」ことを表明し、トランプ大統領は強いアメリカを叫びながらも国内回帰を志向しています。この流れは東アジア(もしくは西太平洋)地域における米中のプレゼンスが逆転しつつあることを意味します。

 こうなると日本は東シナ海、南シナ海のシーレーンの安全を自前で確保すると同時に、この地域で唯一、中国に対抗可能な国として、否応なしに自由主義陣営の盟主として表に立たざるを得なくなります。海自はこの日本のプレゼンスを裏付ける力として、今後ますます重要になります。

 その文脈で考えれば、これまでの定数を大きく上回るヘリコプターを搭載する「いずも型」の就役は、従来のシーレーン防衛一本槍からの脱却を意味する画期的な出来事の1つであり、海自、ひいては日本の将来像を占う存在となります。今はちょうど改編の緒についたところでその姿は曖昧模糊としていますが、今後、イージス艦2隻、3000t型将来護衛艦(30DEX)22隻などが就役することで、新しい海自像が浮かび上がってくるでしょう。

 昨今の日本周辺の情勢は非常に不透明ですが、これまでどおり、砲火の洗礼を浴びることなく、抑止力で済むことを願うばかりです。

(了)
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海上自衛隊「装備」のすべて
厳しさを増すアジア太平洋の安全を保障する
毒島 刀也 著



毒島刀也(ぶすじま とうや)
1971年、千葉県生まれ。1994年、日本大学工学部機械工学科卒業。卒業後、ミリタリー誌『Jウイング』(イカロス出版)、航空雑誌『エアワールド』(エアワールド)の編集者として勤務。2004年より、フリーランスの軍事アナリスト、テクニカルライターとして活動。おもな著書は、『海上自衛隊「装備」のすべて』『M16ライフル M4カービンの秘密』『陸上自衛隊「装備」のすべて』『世界の傑作戦車50』『M1エイブラムスはなぜ最強といわれるのか』(サイエンス・アイ新書)、『図解 戦闘機の戦い方 』(遊タイム出版)など。