スキルアップ
2017年4月7日
歴史を本当に動かしたのは「お金の流れ」だ
文・関 眞興
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現代の経済社会には欠かせない「お金」。人類は長年それを巡って、さまざまな争いを起こしてきました。歴史的に見れば、貨幣は古代エジプトやメソポタミアで制度的に確立。中世に入り、「お金」の重要性は増し、現代のような銀行業が確立しました。そして近世も近代も現代も「お金」が重要であることは歴史的に見ても頷けます。長年、予備校で世界史講師として数多くの受験生を合格へ導き、現在は歴史研究家として精力的に執筆活動を行っている関 眞興先生に、『「お金」で読み解く世界史』(SB新書)の刊行にあたって、「お金」の世界史における役割を語っていただきました。


いつでも「お金」は人間を悩まし続けているやっかいなモノ


 個人的な昔話から始めます。現役を離れてかなり長い時間が経ってしまいましたが、私は長く予備校に奉職していました。毎年2月から3月は入試問題の解答速報作りなどで悪戦苦闘していたことが懐かしく思い出されます。

 最近の入試問題については門外漢になっていますが、大学のあり方そのものは大きく変わっているようです。現在の大学は一部を除いて、門戸は大きく開放されるようになっていて、受験生にとっては売り手市場のようです。

 大学で高等教育を受けられるということは大変いいことなのですが、同時にそれとは次元が違う、深刻な問題が出てきているのが気になります。

 かつて「大学は出たけれど」という言葉がありました。近年では「就職氷河期」という言葉と相通じるものといえましょう。大学は出ても就職先がないということなのですが、現在では、大学には合格したが入学金や授業料が払えないので入学を辞退、諦めざるをえない若者が多いと聞きます。仮に奨学金を貰っても。卒業後、返済が何年にもわたり、加えて就職の氷河期にでも当たってしまえば、返済そのものができなくなってしまうという厳しい現実です。

 それが高校入試においてもみられるというのは暗然とした気持ちにさせられてしまいます。春秋に富んだ若者が「お金」の問題で悩まなければならないのは、何とも悲しいことだと思います。

 もちろん高校生・大学生だけではなく、「お金」は、人間を悩まし続けている、厄介なものです。思いつくままでも「時は金なり」「銭の切れ目が縁の切れ目」「悪銭身につかず」「一円を笑う者は一円に泣く」「江戸っ子は宵越しの銭は持たない」「早起きは三文の得」などなど限りがありません。外国人の、お金に関する箴言(しんげん)の類にいたっては一冊の本では収まりきらないのではないでしょうか。

 そしてそれらはいずれも「お金」と「人生」の機微を実に見事に説明しています。

 たとえば「自分のポケットの小銭は、他人のポケットの大金に勝る」というのはいかがでしょう。怖いのは、他人のポケットの中のお金を、自分のポケットに移したくなる欲求が時に大きなものになることです。

モノを求めて「お金」が動く、「お金」を巡って世界が動く


 人間は生活の必要上から「お金」を発明しました。「お金」というものは大変に便利なもので、そのお陰で、日常生活は言うまでもないことですが、全く知らなかった世界との交流が実にスムーズに行われるようになります。

 現代世界で大きな問題になっているイスラム教ですが、8~10世紀ころのイスラム教徒は、世界経済の中心で重要な役割をはたしていました。当時ヨーロッパはまだ貧しい状態でしたし、インドも混乱状態でした。中国も唐帝国の繁栄が終わり。混乱期に向かっていました。そのような時、イスラム教徒は中国からヨーロッパ、アフリカからロシアという世界の東西南北の中心に拠点を持って各地を結びつけていたのです。新大陸はまだ入っていませんが、ユーラシア大陸とアフリカ大陸はイスラム教徒によってグローバルに結び付けられていたのです。



「お金」で読み解く世界史
関 眞興 著



関 眞興(せき しんこう)
1944年、三重県生まれ。歴史研究家。東京大学文学部卒業後、駿台予備校世界史講師を経て、著述家となる。『学習漫画 世界の歴史』『学習漫画 中国の歴史』(以上、集英社)の構成を手がけたほか、著書に『読むだけ世界史 古代~近世』『読むだけ世界史近現代』(以上、学習研究社)、『総図解 よくわかる世界の紛争・内乱』『さかのぼり世界史』(以上、新人物往来社)、『30の戦いから読む世界史』(上下、以上、日経ビジネス人文庫)、『なぜ、地形と地理がわかると世界史がこんなに面白くなるのか』(洋泉社歴史新書)などがある。
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