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2017年5月8日
いまこそ教訓を学ぶべき!国家デフォルトの歴史
文・関 眞興
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トランプが「アメリカ=ファースト」を掲げ、保護主義的な傾向に陥っている。歴史的に見ても、アメリカなどの大国が世界の富を集めだすと、中小国家でデフォルトに陥る国が多くなり、それによる国際関係の混乱が引き起こされることは目に見えている。『「お金」で読み解く世界史』の著者・関眞興 氏に、歴史的な視座から「デフォルト」を振り返っていただき、現在の反グローバリズムの潮流と行方について語っていただいた。


大国が富を集めだすと、世界は混乱する


 日本人も含めて、アメリカ合衆国は豊かな国家だと思っている人は多い。そしてそれは、いろいろな数値から見ても明らかである。しかし、2016年、トランプが大統領選を制する中で、合衆国を築いてきた白人の中産階級の没落が、かくも深刻なものであるいのかと知り、驚いた人々も多かった。トランプはそのような人々に訴えて「アメリカ=ファースト」をスローガンに大統領に当選した。

 「アメリカ=ファースト」のための、国内・外国企業への圧力はかなり大きな影響も出てきているようだが、社会は「分業」で成り立っており、一国だけでの繁栄はあり得ない。だから、雇用を生み出す産業をアメリカに集中させるという、19世紀的・保護主義的発想で考えるのは、かえって自らの首を絞めるだけでなく、新しい帝国主義時代が到来するかもしれない。

 近代的集権国家以前の王室や諸侯たちの財政は、「丼勘定」とまでは言わないまでも、それに近いのが実際であった。しかし。集権化が進むうちに国家財政をきちんと把握することの重要性が認識され、国富をお金に統一するという考え方が出てきた。これが重金主義であり、重商主義の輸入の抑制・輸出の拡大政策も、重金政策そのものである。このため、重商主義は、国益優先の「保護主義」政策であることは言うまでもない。

 保護主義に対して、世界経済に「自由主義」をもたらしたのはイギリスである。もちろんイギリスとて「イギリス=ファースト」だったのだが、いち早く産業革命を推進し、大量に生産した物資(最初は綿織物)を売りさばかねばならなくなったため、各国が採用している重商主義的保護政策を批判し、自由主義を押し付けていった。しかし、ドイツのような後進国では国内産業の育成のため、外国からの物資の流入は避けねばならず、経済の保護主義は不可欠であった。第1次世界大戦は見ようによっては、自由主義と保護主義の対立という側面を持つとも言える。

 第1次世界大戦は経済後進国ロシアに社会主義国家を生み出した。そのソ連を除いたところで成立した国際関係は、ドイツを犠牲にしたという問題を抱えてはいたが、国際協調が基本路線になった。戦争を主導したイギリスは衰退、アメリカ合衆国も19世紀の孤立主義に戻る中、不満を多く持ったドイツやイタリアでは全体主義政党が台頭、彼らの動きが第2次世界大戦を引き起こした。

 戦後は、米ソ冷戦が国際関係の前提になったが、西側諸国ではアメリカを中心にした自由主義経済体制が実現された。またヨーロッパでは、中小国家の対立から「統合」への道が模索され、それが1993年のヨーロッパ連合になって実を結んだ。しかし、その間、ソ連は崩壊、アメリカも反共のための行動で財政が行き詰まり、特に核兵器の管理は重荷になり、デタントといわれる動きは当然のものであった。そんな時のソ連崩壊であり、一方で中国の台頭という新しい事態の出現であった。

 ソ連崩壊後のロシアは、自由主義経済の衝撃でデフォルト、エリツィンに代わってプーチンが権力を掌握、中国でも改革開放政策が矛盾も抱えたままで一段階したところで習近平が「核心」という名目での独裁体制をそれぞれに樹立している。

 トランプ政権も独裁と言えないわけではないが、合衆国建国以来の民主主義的伝統がそれを防いでいる。それにしても、アメリカ・中国・ロシアといった巨大な国家が世界の富を集めると、中小国家でデフォルトに陥る国が多くなり、それによる国際関係の混乱が、巨大国家をも巻き込んでいくことは目に見えている。

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「お金」で読み解く世界史
関 眞興 著



関 眞興(せき しんこう)
1944年、三重県生まれ。歴史研究家。東京大学文学部卒業後、駿台予備校世界史講師を経て、著述家となる。『学習漫画 世界の歴史』『学習漫画 中国の歴史』(以上、集英社)の構成を手がけたほか、著書に『読むだけ世界史 古代~近世』『読むだけ世界史近現代』(以上、学習研究社)、『総図解 よくわかる世界の紛争・内乱』『さかのぼり世界史』(以上、新人物往来社)、『30の戦いから読む世界史』(上下、以上、日経ビジネス人文庫)、『なぜ、地形と地理がわかると世界史がこんなに面白くなるのか』(洋泉社歴史新書)などがある。