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2017年8月8日
国際情勢の「なぜ?」は世界史を遡って納得!
文・島崎晋(歴史作家)
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「なぜ、中国は海洋進出にこだわるのか?」「ロシアの強国願望が強いワケ」「南スーダンの政情が不安定な理由」──絶えず問題が起こる世界の問題は、現代という表層的な部分だけで理解するのではなく、時代を新しいほうから逆に読んでいくと、その原因が見えてきやすい、と言うのは『現代ニュースの真相がわかる逆読み世界史』の著者で、歴史作家の島崎 晋 氏。ここでは、いま起きている事象を、時代を遡って理解することの意義について、島崎 晋 氏に語っていただいた。


世界の「いま」を読み解く難しさ


 中東では内戦や民族・宗教紛争が日常化し、ヨーロッパでは移民問題と極右の台頭が悩ましい。

 アメリカのトランプ政権は何をしでかすかわからず、ロシアのプーチン政権と中国の習近平政権は独裁色を強めている。日本を含む東アジアにも緊張感が漂ようなど、もはや地球上には安全な地がないかの感さえある。

 なぜ、こんな世の中になってしまったのか。

 東西冷戦の終結時には、世界中に楽観的な空気が溢れていた。この先、世の中が悪くなると予測する人間は極めて稀で、世界中どこの観光地でも、日本人団体旅行客の姿が見られた。日本企業では、中小企業さえもが海外進出をしていた。

 世界中どこへ行こうが、有能な人であれば必ず成功できる。そんな極論を口にする人も少なくなかったが、いざ蓋を開けてみれば、冷戦後の世の中は、地域紛争やテロが蔓延して、安心して商売ができ旅行を楽しめる状況ではなくなっていた。なぜそうなることを、多くの人は予測できなかったのか。

 日本人の海外旅行熱は、バブル期ほどではないが、現在なお余熱を保っているが、日本人の多くは「世界のいま」を予測できず、ただ頭を抱えて嵐の過ぎ去るのを待つしかないと決め込んでいる。そんな責任の一端はマスコミにもあるだろう。

「過去」から「いま」への流れを理解する


 テレビで海外取材番組も多く放送され、大手メディアは世界の主な都市に駐在員を配置し、独自のニュース収集にも努めている。重大事件が起きると短期集中で情報を垂れ流すが、現場の記者がしっかりと取材をして、目のつけどころがよい記事を書き上げても、本社の編集部では先入観や政治的配慮が優先され、現実とほど遠い記事が紙面に載ると聞く。

 それでは、インターネットなら正確な情報を得られるのか。それもノーである。情報化社会は、誰もが情報を発信できる半面、大きな落とし穴がある。他人と議論したり第三者の目を経たりすることなく発信される情報は、思い込みや勘違い、根拠のない決め付けのオンパレードなのだ。

 現代世界で起きている多くの紛争や対立は、どれも突然降って湧いたものではなく、それぞれに歴史的・文化的背景があるのだ。つまり、いま何が起き、これから何が起きようとしているのか。それらを探るには当事者たちの怒りや悲しみの源泉に立ち返る必要があり、それなくして、彼らの行動原理を理解することは不可能である。

 なぜ「いま」があるかを突き詰めれば、「過去」から「現在」への流れがわかり、「現在」から「未来」への対処についても、ヒントとなりうる何かが見えてくるだろう。

歴史を「逆読み」することの大切さ


 たとえば、フィリピンでテロ活動を繰り返すイスラム過激派の中には、IS(イラクとシリアのイスラム国)に共鳴する勢力もあれば、アル・カーイダから資金援助を受けていた勢力、内戦下のアフガニスタンで戦闘訓練を受けた勢力などもある。

 フィリピンが危険な場となった背景に、歴代政権による差別政策はもとより、19世紀末のアメリカ統治時代と16世紀中頃からのスペイン植民地時代の政策が深く関係している。アメリカ統治時代にはカトリック住民の南部への大量移住が行われ、スペイン植民地時代にはカトリックへの改宗が強要された。15世紀までに全島のイスラム化を終えたところへカトリック化が強行され、南部の住民だけが改宗を拒んだのだった。

 南部のイスラム教徒住民からすれば、カトリックに改宗したフィリピン人は聖戦の対象とすべき存在だ。そのために対決姿勢を崩さず、アラビア語で「父なる剣士」を意味するアブ・サヤフのように、アル・カーイダから経済支援を受け、戦闘訓練にも加わり、外国人観光客の拉致を繰り返すイスラム過激派組織が強い勢力を保ちうるのだ。

 こうしたフィリピンの例からも、現在進行中の出来事はすべて、歴史的・文化的な背景がある。目前の出来事だけで判断し、行動したのでは軽率の誹そしりは免れないだろう。

 したがって、現実に起きている問題を、時系列順に説明しては問題の根幹を見失うことが多いだろう。当事者たちそれぞれの、スタートラインがわからなければなおさらである。その点から、歴史を「逆読み」をすることも必要である。50年、100年、300年...と遡る視座をもてば、因果関係や遠因、いまから見ての転換点などが理解しやすくなるはずだ。

──『現代ニュースの真相がわかる 逆読み世界史』では、ここで例にあげたフィリピンの他にもアメリカ第一主義、中国の海洋進出、イギリスのEU離脱、フランスでの極右政党台頭、トルコでのクルド人問題など、37の時事問題を、島崎 晋 氏が歴史を「逆読み」する視座でわかりやすく解説している。

(了)
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現代ニュースの真相がわかる 逆読み世界史
島崎 晋 著



島崎 晋(しまざき すすむ)
1963年、東京都生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒業(東洋史学専攻)。大学在学中に、立教大学と交流のある中華人民共和国山西大学(山西省太原市)への留学経験をもつ。卒業後は旅行代理店勤務ののち、編集者として歴史雑誌の編集に携わり、歴史作家になる。著書に『目からウロコの世界史』『目からウロコの東洋史』『世界の美女と悪女がよくわかる本』(PHP研究所)、『さかのぼるとよくわかる世界の宗教紛争』(廣済堂出版)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)など多数。