ビジネス
2018年2月13日
なぜジャパネットは社長交代後も高成長を続けるのか?
『まかせる力』より
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「聞かれたら答える」「ヒントを与えてやる」がまかせる力


"伝説の外資系トップ"の異名をもち、高田氏が"経営の師"と仰ぐ新将命氏。これまでもジャパネットの幹部研修で講演や指導を行った(撮影:辻聡)

 まかせる力をつけるには、「聞かれたら答える」「ヒントを与えてやる」という姿勢でいい、と新氏はいう。これは「スキル」は後からでも学べば伸ばせるが、「マインド」は浸透させる必要があると考えているからだ。

:問題解決やサービス向上の工夫・努力はまかされた側の責任と自主性で行うようにもっていく。そのうえで、もし聞きたいことがあるというのなら、何でも聞いてくれというその回路は残しておく。これがベターでしょうね。

髙田:自分でやったほうがうまくいく、早くできるとわかっていても、聞かれるまではじっとガマンなわけですね(笑)。

:その通り。聞かれてもいないのに社長が口を出し、少しうまく・早くできても、それはいつまでも続きませんから。いつか否応なしにリタイアせざるを得ない時期は必ず来る。「スキル」は学べばいくらでも後追いで伸ばせるのです。まかせた側の社長としては、むしろ「マインド」の浸透に尽力すべきであり、「スキル」面でいうなら、社内の学びのしくみやシステム作りに腐心すればよい。さらにいえば、「彼に任せておけば(しばらくは苦労させるかもしれないが)必ずうまくやってくれる」という人選の面に神経を使うべきです。そうして「まかせて」うまくいかなければ、それはまかせた側の責任ということです。

髙田:よくわかりました。そういえば、社長とMCを引退してしばらく後のこと、跡を継いだ息子の旭人から、「もうスタジオへはこないでくれ」と言われました。私が口出しする場面は減っていたこともあり「えっ、どうして?」と思ったのですが、息子によると、私がいることでテレビ制作にあたるスタッフたちが、自ら考えなくなるというのですよ。たとえ私が口出ししなくても、私の現役時代を知るスタッフたちは、私流のやり方に引きずられるかもしれない。あるいは、横で見ている私の表情から、「先代はこのやり方は気に入らないようだな」などといらぬ"忖度"をするかもしれない。私はそう理解して、スタジオへ足を向けることをやめました。

:それで良いと思います。自分たちで新たなジャパネットたかたを作る、髙田さんというカリスマに頼らなくても成長していける企業を作り、社会貢献を続ける。その気持ちが共有できているなら、あとはもう「聞かれたことだけ答える」で大丈夫。

 実際、新氏がいうように、髙田氏がいなくても、現社長をはじめ現場のスタッフまでもが生き生きと楽しそうに仕事をしているという。そのため、髙田氏が相談を受けて何かをアドバイスする場面も減る一方だという。このことからも、「聞かれたら答える」「ヒントを与えてやる」という姿勢でも、まかせる力がうまくいっていることがわかる。

まかせる力のポイント「仕組み」「システム作り」


 新氏は旭人氏のマインドを高く評価し、彼の「仕組み」「システム作り」のスキルにも興味を示している。これは「まかせる力」のポイントとなるからだ。

:旭人さんに、マインドが十分に備わっていたことは、彼の人柄からも父の背を見てきた生き方からも理解できます。スキルも相当に高いのでしょうが、髙田さんから見て、旭人さんのどのような点が優れているのでしょう。

髙田:処理能力と判断能力でしょうか。処理能力というのは、言い換えれば仕組みやシステム作りです。コールセンターや物流センターの仕組み構築の面では、ITの活用も含めて本当によくやったと思います。ITが苦手な私が、このまま仕組みづくりを続けて追いつかなくなるより、旭人や幹部たちにまかせたほうが良いと本気で思いましたね。旭人がやった仕組みづくりは、ITもアナログも駆使してのもので、処理の早さや緻密さは私にはない才能と思います。もう一つの判断能力というのは、「決断力」のようなものです。36歳で社長に就任した若さゆえの反射神経もあるかもしれませんが、私のような閃き型の決断ではなく、緻密にデータや情報、声を集めての決断です。その力も相当に高いと、私は踏んでいる。親ばかかもしれませんが。若さゆえの経験不足があるかもしれませんが、逆に考えれば私が60歳でようやく気づいたことを、50 歳までに気づいてくれるかもしれない。そうなれば、より多くの幸せを届けられる会社になるはずだと願っています。

:仕組み作りがうまい、という点に興味を持ちました。今回、「まかす」というテーマに即して私が述べているポイントの一つが、この「仕組み」「システム作り」だからです。往々にして髙田さんのような「カリスマワンマン」がいる会社では、そのワンマンが不在になることで、社内外の活動や信頼が揺らぐことがある。そうならないために、あるいはジョンソン・エンド・ジョンソンのような長寿優良企業に脱皮するためには、仕組みづくりが絶対条件なのです。旭人さんが、そうした仕組み作りに長けているというのは、彼の個性でもあり強みでもあるのでしょう。同時に、推測を交えて言えば、「いつか社長を継ぐ」という覚悟のようなものが芽生え始め、その過程で「これから必要になること」を考え始めていたのかもしれません。

髙田:なるほど。そこまで考えていてくれたのであれば嬉しいことです。

:まかされた者の最大の責任が、理念の共有と伝達です。今はそれを行いながら会社を成長させ顧客に幸せを届けるのが旭人さんの仕事でしょうが、いずれ三代目に事業と思いを承継していかなければならない。それが旭人さんの最大の仕事になるのです。

社長交代、MC「卒業」を経営リスクとせず、高成長を続けるジャパネット。その強さの裏には、企業理念やクレドの継承、そして「まかせる力」の存在があることを書籍で熱く語る(撮影:辻聡)

──SB新書『まかせる力』では、厳しい競争のもとで勝ち残り、企業を永続させるための"真髄"が語られているだけでなく、「行き詰まり、逆境下にありなんとか改革をしたい」「自発性のある組織をつくりたい」「うまく後継者を育てたい」といった経営者・リーダーが知りたい事柄にも触れ、そのノウハウも展開されている。

(了)


まかせる力
新 将命・髙田 明 著



新 将命(あたらし・まさみ)
株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。現在は株式会社ティーガイア、ライザップグループ株式会社を含む数社の社外取締役を務める。ユーモアあふれる独特の語り口は、経営幹部層や次世代リーダーの間で絶大な人気を誇る。著書に『伝説の外資トップが説くリーダーの教科書』『経営の教科書』『王道経営』(以上、ダイヤモンド社)など多数。

髙田 明(たかた・あきら)
ジャパネットたかた創業者。株式会社A and Live代表取締役。株式会社V・ファーレン長崎代表取締役。1948年長崎県生まれ。1971年大阪経済大学卒業。機械メーカーを経て、1974年に実家が経営するカメラ店(現・ジャパネットたかた)に入社。1990年からラジオショッピング、1994年にはテレビショッピングに参入する。2015年に社長を退任。2016年1月にはMCとしての番組出演を「卒業」。2017年にはV・ファーレン長崎の経営再建を引き受け、社長就任1年目でJ1昇格。著書に『伝えることから始めよう』(東洋経済新報社)、『90秒にかけた男』(日経経済新聞出版社)がある。
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