カルチャー
2015年6月18日
食材を美味しく冷凍・解凍するには?
[連載] 暮らしを支える「熱」の科学【3】
文・梶川武信
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食材を冷凍保存するときに知っておきたいこと


図1 食材は急速冷凍のほうが細胞へのダメージが少ない ※クリックすると拡大

 食材を低温、特に冷凍にする理由は、食材の長期保存のためです。単に保存するだけでなく、使いたいときにそれを元の状態に戻し、調理するところまでを考えた保存が必要です。

 細菌の増殖は、低温にすると極度に抑制することができます。温度が低いほど安全ですが、1年間の保存を目安にすると、-18℃凍結が多くの場合で採用されています。食材のほとんどは70~80%の水分を含み、ときには90%にも及びます。不純物のない水なら0℃で氷結しますが、細胞の中の水分には酵素やアミノ酸など多くのものが含まれています。溶けている物質を溶質といい、氷結する温度を凝固点といいますが、この温度は溶質の濃度に比例して下がります。塩分を約3%ほど含む海水は0℃では凍らず、-1.8℃くらいが凝固点です。食材の場合、凝固点は-5~-1℃程度になります。

 凍るとは液体が固体に変化することなので、凝固熱が必要です。凝固熱の逆は融解熱で、これは蒸発熱と凝縮熱の関係と同じで、物質の状態変化を表す言葉です。水を凍らせるためには、1kgあたり335kJ(80kcal/kg)の凝固熱を水から奪わなくてはなりません。

 さらに氷の比重は0.92なので、体積が1.087倍増加します。水が凍結すると水道管が破裂するように、細胞が凍結すると体積が膨張して破壊されてしまいます。これでは元に戻すことができません。このため、冷凍するにも工夫が必要になるのです(図1)。

 氷の結晶が成長する温度帯は、最大氷結晶生成帯と呼ばれます。これは氷結開始時点から、80%が氷の結晶に変わるまでの時間を指していて、そこをいかに短時間で切り抜けるかが問題です。

 現在では急速冷凍法を採用して、通常6時間ほどかかるところを30分以内で行うようにすることで、氷の結晶の大きさを小さく抑え、品質の高い冷凍が達成されています。

食材のベストな解凍法は?


図2 氷水で、おだやかに解凍するのが食材にはベスト ※クリックすると拡大

 食材を保存のために冷凍した場合、解凍方法を間違えると、せっかくの食材のよさを殺してしまいかねないので、解凍は食材と調理の目的を考えて最適な方法を選ぶことが大切です。

 解凍は、文字どおり「加熱によって氷から水に戻す」ことです。加熱方法は、冷凍された食材の温度(通常は―18℃)と加熱温度との差によって分類されます。温度差の大きい順に、急速加熱解凍(熱湯、電子レンジ、電気ヒーター、オーブン)、常温解凍(室 内、屋外)、水道水流水解凍、冷蔵庫内解凍(食品保管室、野菜庫)、氷水解凍となります。また、解凍する食材と加熱源との接触の仕方により、直接加熱と間接加熱に分けることができます。

 理想的な解凍は、食材の中の水が一様におだやかな相変化(氷から水へ変わること)をする温度環境をつくることだといわれています。電子レンジを除けば、解凍熱源と食材は熱伝導あるいは対流熱伝達によって熱が伝わり、表面から内部へ解凍が進みます。

 一様におだやかな解凍という点では、氷水解凍がベストといえます。氷水をゆるくかき混ぜて温度を一定に保ってやると、さらによいといわれます。解凍によって細胞が壊れ、うまみ成分が流出してしまう問題は、冷凍食材をほかの食材といっしょに調理する煮込み料理であれば、解決できるかもしれません。

 電子レンジで使われる電磁波の波長は、液体の水の加熱に適していても、氷の加熱には適していません。したがって電子レンジでの解凍は部分的に進み、水分が出始めるとそこが加熱されてむらになりやすく、食材によっては著しく味を損なう場合があるので、注意が必要です。

(了)
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暮らしを支える「熱」の科学
ヒートテックやチルド冷蔵、ヒートパイプを生んだ熱の技術を総まとめ!
梶川武信 著



【著者】梶川武信(かじかわ たけのぶ)
1942年、東京都生まれ。名古屋大学大学院工学研究科修了。工学博士。専門はエネルギー変換工学。通商産業省(現経済産業省)電子技術総合研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所)から湘南工科大学までの42年間、熱電発電など新発電技術の研究開発および大学教育に従事。現在は湘南工科大学名誉教授。著書に『「再生可能エネルギー」のキホン』(SBクリエイティブ)、『エネルギー工学入門』(裳華房)、『海洋エネルギー読本』(オーム社)、『熱電学総論』(S&T出版)など。