ビジネス
2015年11月11日
計画発足から13年、ついに初飛行を迎えた「MRJ」が注目される理由とは?
文・杉山勝彦
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リージョナルジェット機とは何か


日本の航空機生産額の推移

 航空機をその大きさ(座席数)で分類すると、座席数が400以上の「大型機」がまず最初に来る。ボーイングの747(通称ジャンボジェット、標準座席数450)、エアバスのA380(同555)のように、大勢を一度に遠くまで運べる機体だ。航続距離は最大1万6000㎞もあり、大陸間の飛行にも多用される。日本では国土が狭く、かつ大都市間の移動に乗客が集中することから、多くの本数を飛ばせないため、国内用にも国内専用のジャンボ機を飛ばしてきた。今でも大都市間にはボーイング777(400席を超える)を飛ばしている。
 これは国際的に見ても珍しいケースだ。乗る側にしてみれば250人乗りの便を2回 出してもらった方が便利だが、運ぶ側の事情で400人以上の乗客を一度に運ぶというやり方になっているのである。

 次の「中型機」は座席数が250~350程度で、都市間飛行に多用されているが、最近では大型機による大量輸送より中型機を使った利便性やサービスのいい輸送の方が好まれており、出番が増えている。ボーイング767やエアバスのA330、A340が代表的だ。エアラインにとってはこのクラスの方が燃料効率がいいため、機体メーカーでもボーイング787、エアバスのA350XWBなど新機種の投入・開発が盛んだ。

 「小型機」はこれより小さい座席数100~200クラスの機体で、ここではボーイング737、エアバスA320の2機種がベストセラーになっている。リージョナルジェット機というのはこの小型機よりもさらに小さい、座席数100未満の航空機を指す。大都市と(大型機の幹線ルートに取り残された)地方都市、あるいは地方都市同士を結ぶ、地域のコミューターとして使われる。国と国とが隣接している欧州では国際線にも用いられている。

 従来、ジェット機といえば燃料効率からいって100席以上の機体でないと採算が合わず、このクラスはプロペラ機の世界と決まっていたのだが、リージョナルジェット機は機体もエンジンもハイテク素材を多用することで、プロペラ機に匹敵する省エネルギーを実現した。そのため「座席数は少なくてもいいが、プロペラ機ではやや非力」といった路線がどんどんリージョナルジェット機に置き換わっている。
 そうでなくとも燃料価格が高騰している昨今、「大きいことはいいことだ」という発想は全く通用しない。ハイテク装備で高効率の小型ジェット機が、水すましのようにすいすいと世界中を飛び回るようになれば、今まで考えられなかった所にも路線ができるようになる。その方がかつてのコンコルドのような超音速旅客機(SupersonicTransport =SST)や超大型機を開発するより時流に合っているのである。

MRJは初の民間主導型プロジェクト


 2002年、経済産業省は「環境適応型高性能小型航空機」計画を発表した。経済産業省が新しい小型航空機(当初計画では30席から50席)の開発について機体メーカー3社(三菱重工業、川崎重工業、富士重工業)に提案を求め、これに応募したのが三菱重工業と富士重工業だ。その結果、三菱重工業を主契約者、富士重工業を副契約者とする国産ジェット旅客機の開発が決まった。これが三菱リージョナルジェット機(MRJ)プロジェクトだ。
 この計画は、環境対応を前面にうたった航空機ということで、機体の軽量化や空気抵抗の少ない機体形状を取り入れることによって、大幅な燃費削減を図り、地球環境の保護に貢献しようというコンセプトになっていた。もっとも、環境対応より高性能小型航空機を造る方に意義があるのはいうまでもない。国民の税金が投入される国家プロジェクトには常に何らかの公的理由がなければならず、今回のプロジェクトの表向きの理由が「環境適応」だと考えればいい。
 ただ、単にエコロジーブームに乗ってこうした理由が持ち出された訳ではなく、実際ジェット旅客機が消費する燃料と排出する二酸化酸素の量は半端ではない。また、エアラインが燃費の高騰に悩まされているのも事実であり、環境対応技術が日本の得意技であることを考えると、市場ニーズに合ったテーマであることは確かだ。

 三菱リージョナルジェット、MRJは、日本最大の機体メーカーである三菱重工業と三菱航空機が開発から販売までの事業主体になっている。それを経済産業省所轄のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と文部科学省所轄のJAXA(航空宇宙研究開発機構)が側面から支援し、さらに富士重工業が協力する体制で開発が進められてきた。NEDOは、プロジェクトの評価と開発補助金を提供する。JAXAは数十名規模のプロジェクトチームを結成し、燃費や環境保護、騒音などの差別化技術の検証を担当するほか、大型風洞実験装置など最新の試験装置も提供し、基本設計に深く関与する。

 MRJの開発において最も注目されるのは、それが日本で初めての民間主導型の開発プロジェクトということだろう。50年前のYS‐11はもちろん、その後に次々と打ち出された航空機開発計画はすべて、国家主導型のプロジェクトだった。しかしMRJの開発では、国が後方支援の役割に回るだけでなく、機体メーカー間の横並びも排除された。あくまでも手を挙げた機体メーカーが自身の判断で開発を遂行する形になったのだ。

(了)


日本のものづくりはMRJでよみがえる!
杉山勝彦 著



杉山勝彦(すぎやまかつひこ)
東京都生まれ。企業信用調査、市場調査を経験した後、証券アナリストに転身。以降ハイテクアナリストとして外資系、国内系証券会社を経験し、ほぼ製造業全般をカバー。この間、96年に株式会社武蔵情報開発を設立して中小企業支援の道に入り、長野県テクノ財団主宰の金属加工技術研究会の座長を務める。現在は証券アナリストとして取材、講演活動に従事する傍ら、80年代前半のNY駐在時代に嫌というほど飛行機に乗った経験から研究を始めた航空機産業に対する知識を生かし、中小企業支援NPO法人「大田ビジネス創造協議会(OBK)」をベースに、航空機部品を製造する中小企業の育成に取り組んでいる。
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