カルチャー
2016年2月5日
野村克也氏が危惧「セ・リーグ全員40代監督」
[連載] 名将の条件――監督受難時代に必要な資質【1】
聞き手・SBCr Online編集部
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今は「監督受難」の時代である


 さらに困ったことに、勝った負けたの結果ばかりを追い求めているのは、解説者だけではない。チームの運営を預かる球団オーナーや社長も同じなのである。負けが込むと「監督の采配に問題があるのでは」などと疑心暗鬼になり、シーズン通してBクラス、あるいは最下位に沈んでしまおうものなら、すぐさま監督、コーチを総取り換えしてしまう。「監督やコーチを代えれば勝てる」と思い込んでいるのだ。

 そして後釜の監督やコーチのポストを狙っている解説者は、低迷しているチームのオーナーや社長にご機嫌をうかがいながら、虎視眈眈とその座を狙っている。なんとも嘆かわしい限りだが、これこそが監督受難の時代を進行させている最大の要因と言えよう。

 私が現役時代だった頃、そして監督として現場復帰した90年代と2000年代を振り返ると、今よりもっと面白い野球を繰り広げていたように思えて仕方がない。
 野球は1球投げるごとに状況が変わるスポーツだ。そして走者が塁上にいれば、それだけで緊張感が増してくる。アウトカウントやボールカウントによってリードを巧みに変え、走者を牽制し、打者をいかに抑えるかに気を配らなくてはならない。

 ところが今の野球は違う。打者を打ち取るにしても、考えてリードしている捕手がどれだけいるのだろうか。あるいは味方のベンチが相手チームのサインを察知して、裏の裏をかくような野球をしていたチームがどれだけあったのかと聞かれれば、疑問符はとれない。

 2015年、12球団の捕手でシーズン通してフル出場を果たしたのが、ヤクルトの中村悠平だけであることを考えると、「考える野球」を実践することなど、まず不可能と見て間違いない。

重みある言葉を言えるか? 監督不足で求められる資質


 そこに追い打ちをかけたのが、巨人、阪神、DeNAの新監督である。ここにヤクルト、広島、中日を加えればセ・リーグは実に6球団全部の監督が40代だ。彼らは本当に監督としての資質、器量が備わっているのかと聞かれれば、疑問は尽きない。

 これは何度も言っているが、良い監督の条件とは何だろうか。プロ野球は勝利至上主義、結果主義の世界だから、勝てる監督であることは言わずもがなだが、それを除けば一つしかない。信頼、信用されることだ。

「信」は万物の元をなす。選手がいかに監督を信頼、信用しているか。これがなければチーム作りなどできるわけがない。自分の会社に置き換えて考えてもらえばわかると思うが、トップに信頼がなければ仕事はうまく回らない。それと同じことだ。

 その信頼を得るのに重要なのが「言葉」である。リーダーは人の前できちんとモノが言える人物でないといけない。選手が聞いて感心し、納得するような言葉を持つ者こそが、選手から信頼・信用される良い監督なのだ。

 監督の器でない人物を選んでしまったならば、選ばれた本人にとっても、あるいはチームにとっても悲劇でしかない。シーズンオフに40代監督がいとも簡単に誕生した背景を考えると、私は期待以上に不安のほうが先走ってしまう。それが杞憂に終わるような、本物のプロ野球を2016年シーズンに期待する。

(了)





名将の条件
監督受難時代に必要な資質
野村 克也 著



野村 克也(のむらかつや)
1935年生まれ。京都府立峰山高校を卒業し、1954年にテスト生として南海ホークスに入団。現役27年間で、歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王など、その強打で数々の記録を打ち立て、不動の正捕手として南海の黄金時代を支えた。「ささやき戦術」や投手のクイックモーションの導入など、駆け引きに優れ工夫を欠かさない野球スタイルは、現在まで語り継がれる。70年の南海でのプレイングマネージャー就任以降、四球団で監督を歴任。他球団で挫折した選手を見事に立ち直らせる手腕は「野村再生工場」と呼ばれる。 ヤクルトでは「ID野球」で黄金期を築き、楽天では球団初のクライマックスシリーズ出場を果たすなど輝かしい功績を残した。インタビュー等でみせる独特の発言は「ボヤキ節」と呼ばれ、 その言葉は「ノムラ語録」として野球ファン以外にも親しまれている。
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