ビジネス
2017年4月4日
孫正義のプレゼンが人を魅了する理由
『孫正義 奇跡のプレゼン』より
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プレゼンの達人と呼ばれ、奇跡とも呼べる企業提携を世界中で実現してきた孫正義 氏。実は、そのプレゼン戦略は非常にシンプルで明確。誰もがすぐに実践できるものばかりです。かつてソフトバンクの社長室長を務めた三木 雄信さんの著書『孫正義 奇跡のプレゼン』から、孫正義 氏のプレゼンが人を魅了する理由と、そのテクニックの一部を見ていきましょう。新年度のスタートに合わせて、あなたのプレゼン技術を向上させてみてはいかがでしょうか。


会社の"限界"を超えるためにプレゼンの力を使ってきた孫正義


『孫正義 奇跡のプレゼン』(三木 雄信 著)

 孫正義は、プレゼンテーションの達人といわれる。孫正義のプレゼンテーションを聴くために常に会場は満杯になり、インターネットでの動画中継では数万人が視聴する。

 孫正義は、多くの来場者に対して訴えるためだけでなく、一対一の交渉の場面でもほとんどの場合、プレゼンテーションを行う。そして、そのプレゼンテーションを受けた相手は、不思議なほど説得されてしまうのだ。

 このプレゼンテーションの力によって、ソフトバンクはiPhoneやiPadのような新しい製品・サービスを一気に広げ、米アップルや米Yahoo!をはじめとする世界中の多くのIT企業との提携を実現してきたのだ。こうしたソフトバンクの快進撃は、孫正義のプレゼンテーションの力によるものと言っても言い過ぎではないだろう。

 では、なぜ孫正義のプレゼンテーションがソフトバンクの経営の中で重要な役割を果たしているのか? それは孫正義が、プレゼンテーションの力をソフトバンクの"限界"を超えるために使ってきたからだ。

 孫正義は、創業以来、パソコン・ソフトウエアの流通、Yahoo! JAPANなどのポータルサイトやeコマース事業、ブロードバンド事業、固定電話事業、携帯電話事業とその事業領域を常に拡大してきた。このように事業領域を広げていくためには、その事業領域ごとにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源が必要だ。しかし、ベンチャー企業のソフトバンクには、新規事業領域のための経営資源がほとんど社内になかった。このため孫正義は、経営資源をソフトバンク社外から調達することで、事業領域拡大を実現させてきた。

 このときの孫正義の最大の武器がプレゼンテーションの力だったのである。

 たとえば就職活動中の学生に対しても、「なぜ自社に入社するべきか」を納得してもらう必要がある。また経営資源を多く持っている有力企業に対しては、「なぜ自社と提携するべきなのか」を説得する必要もある。同様に投資家や銀行に対しても、「なぜ出資するべきか」を説き、「融資しても大丈夫だ」と確信させなければならない。

 就職活動中の学生は、数百の会社に応募している。学生も、「当社は業界最大手で風通しの良い社風が自慢です。また社会貢献や環境保護にも力を入れています」といった企業説明を何度も聞いているはずだ。

 提携を求める有力企業も、多くの企業から提携の打診を受けているはずだ。資金調達をお願いする投資家や銀行も、数百、数千という「出資・融資してほしい」という話を聞かされたりしているのだ。このような有力企業・投資家・銀行の担当者は、「新分野で利益の出る事業です」という説明や資料にはうんざりしている。いったい、誰にどんな価値があるのか、どこに成功の根拠があるのか、どれだけの覚悟や思いがあるのか、といったことがさっぱり伝わってこないからだ。ありきたりの説明では、彼らの興味を引き付けることは難しいのだ。

 こうした人々を自社に引き付けるためには、「メッセージを共有し共感」してもらうことが何より重要だ。孫正義のプレゼンテーションは、パートナーにしたい相手や社外資源の協力を得たい相手に対し、「メッセージを共有し共感」するために使われている。

 このため孫正義のプレゼンテーションでは、一般的な経営戦略論の枠組みに従って、自社の強みや弱みを説明することなどはしない。その代わり、その事業の「歴史的な必然性」を訴えるのだ。そして、その事業が社会にとってどのような価値があるのかを訴える。

 このような「歴史的必然性」と「社会的な価値」を訴えることが「共感」を呼ぶのである。これが孫正義のプレゼンテーションが多くの人を動かしてきた理由だ。

 人は誰もが心のどこかに「現在の社会を少しでも良い方向に変えたい」「歴史の1ページに小さくとも自分の足跡を残したい」という情熱を持っているものだ。孫正義のプレゼンテーションは、その小さな情熱の炎を大きく燃え立たせるのだ。

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孫正義 奇跡のプレゼン
人を動かす23の法則
三木雄信 著



三木雄信(みき たけのぶ)
1972年福岡生まれ。1998年にソフトバンク株式会社に入社。2000年より同社社長室長となる。Yahoo!BB事業の立ち上げやナスダック・ジャパンの設立、日本債権信用銀行(現あおぞら銀行)の買収案件などにプロジェクト・マネージャーとして関わる。2006年にジャパン・フラッグシップ・プロジェクト株式会社を設立し、現在、同社代表取締役社長兼CEO。ベンチャーから上場企業まで数多くの社外取締役・監査役も務める。日本年金機構(旧社会保険庁)では理事(非常勤)として改革を進めている。政府の委員など多数。東北学院大学経営研究所特別研究員。元厚生労働省大臣政策室政策官。