カルチャー
2014年4月21日
平成の零戦・航空自衛隊「F-2」は尖閣有事でどう戦うのか?
文・青木謙知/写真・赤塚 聡
戦闘機で駆けつけても相当遠い尖閣諸島
右主翼下に搭載した2発のASM-2を見せる、第8飛行隊所属のF-2A。機外装備品の搭載は左右対称が基本なので、左主翼下にもASM-2が2発あることになる、これは、FS-Xで要求された4発搭載の形態による飛行である。さらに増槽も2本搭載しており、これによって450浬(約830km)の戦闘行動半径を獲得できる ※クリックすると拡大
しかし、今日では中国の軍事力の近代化と増強、尖閣諸島の防衛など、南西方面に課題がシフトしていることは確かです。
現在、F-2の飛行隊は青森県の三沢基地に2個飛行隊、福岡県の築城(ついき)基地に1個飛行隊ですが、平成29(2017)年度からの三沢基地でのF-35飛行隊建設にともない、平成28(2016)年度初めに第8飛行隊が築城基地に移動し、今度は築城基地にF-2の飛行隊が2個飛行隊配備されます。これにより、南西方面の海洋作戦力が高まることは間違いありません。
航空自衛隊が九州・沖縄方面で戦闘機部隊を配置している基地は、前述した福岡県の築城基地、宮崎県の新田原(にゅうたばる)基地、沖縄県の那覇基地です。ただ、築城基地から尖閣諸島までの距離は約1,140km、新田原基地からは約1,050km、那覇からは約420kmと、尖閣諸島がこれらの基地から遠いこともまた確かです。
F-2は、前記したように空対艦ミサイル4発を携行して約830kmの戦闘行動半径をもちます。このF-2に、現時点で航空自衛隊が装備するもっとも射程の長い(約150km)空対艦ミサイルである93式空対艦誘導弾(ASM-2)を組み合わせると、基地を発進したF-2が空中給油機や前進基地を利用せず単独で攻撃できる半径は、約980km(約830km+約150km)ということになります。
たとえば尖閣諸島から約1,140km離れた築城基地を発進したF-2が、尖閣諸島に上陸しようとしている敵の船団を攻撃するには、空中給油機の支援を受けるか、沖縄県内のいずれかの飛行場(沖縄県には那覇以外に石垣島と宮古島に比較的大きな空港がある。宮古島から尖閣諸島までは約210km、石垣島からは約170km)を前進基地として使用するなどの必要があるのです。
中国空軍の戦闘機数は航空自衛隊を凌駕する
現在、尖閣諸島を巡っては、中国が領有権を主張しているので、なにか問題が生じるとしたらその相手は中国ということになるでしょう。中国は近年、中国人民解放軍空軍(中国空軍)の戦闘機を新型化させています。
主力機であるSu-27"フランカー"と、これを国産化した殲撃11型(J-11)は、F-15と同様の大型戦闘機で、高性能のレーダー火器管制装置を備え、搭載できる空対空ミサイルの数も多いと見られています。現在の保有機数は150機あまりのようですが、国産していることから数が増えるペースが速く、すぐ200機に達すると思われます。
中国はまた、Su-30シリーズも100機余り(中国空軍と中国海軍の合計)保有しており、こちらはリバース・エンジニアリング(いわゆるコピー)で殲撃16型(J-16)を製造する模様です。さらに、戦闘機では独自開発の殲撃8型Ⅱ(J-8Ⅱ)シリーズ、戦闘攻撃機では殲撃10型(J-10)も装備しており、こうした新型機だけで、機数の面では航空自衛隊の戦闘機数(F-15J/DJ:201機、F-2A/B:92機、F-4EJ/EJ改:62機)※を確実に上回っています。
※防衛省『防衛白書 平成25年版』
中国が尖閣諸島に着上陸する必要性や意味の有無はさておき、万が一そうした行動にでた場合、上陸作戦時には、まず殲撃10型(J-10)やSu-30MKK(中国向けSu-30の1タイプ)などが空対地攻撃を行い、その上空や揚陸部隊船団の上空をSu-27や殲撃11型(J-11)で護衛するということが一般的に考えられます。
もちろん、尖閣諸島に日本側の自衛隊などがいなければ、航空攻撃なしに、一気に上陸することができます。
F-15Jの空対艦/空対地攻撃能力は事実上ゼロ
最初に航空攻撃作戦が実施されるとした場合、航空自衛隊の戦闘機は、まず上空を援護する中国の戦闘機を追い払い、その後、攻撃機を駆逐することになります。
しかし、前記のように基本的な機数の差と尖閣諸島までの距離を考えると、現状では数の上で劣勢になることを避けられません。どの基地から何機を向かわせて、どのような形で対処するかを判断するのも、きわめて難しい判断になるでしょう。
航空自衛隊のもう1機種の主力戦闘機はF-15Jですが、空対艦ミサイルや誘導爆弾などによる空対艦/空対地攻撃能力をもつのはF-2だけです。F-15Jは空対艦ミサイルを装備できず、誘導爆弾、無誘導の通常爆弾の運用能力もありません。正確にいえば、無誘導爆弾を取りつけて、ただ落とすだけならできますが、照準や投下計算機能はないので、空対艦/空対地攻撃能力は事実上ゼロです。
よって、空対艦/空対地攻撃は、F-2が担当することになります。F-2が空対艦/空対地攻撃を行うときには当然、空対空ミサイルの携行量が制限されるので、「F-2に高度な空対空戦闘能力がある」といっても、この能力をフルに活かすことはできません。
そのため、空対空戦闘を担当するF-15Jとバランスを取りながら最適な機数のF-2を作戦に投入しなければならず、現時点では、F-15JとF-2の2機種を効果的に組み合わせて運用することが、きわめて重要なのです。
(了)
【著者】青木謙知(あおきよしとも)
1954年12月、北海道札幌市生まれ。1977年3月、立教大学社会学部卒業。1984年1月、月刊『航空ジャーナル』の編集長に就任。1988年6月、フリーの航空・軍事ジャーナリストとなる。航空専門誌などへの寄稿だけでなく新聞、週刊誌、通信社などにも航空・軍事問題に関するコメントを寄せている。著書は『徹底検証! V-22オスプレイ』『ユーロファイター タイフーンの実力に迫る』『第5世代戦闘機F-35の凄さに迫る!』『世界最強!アメリカ空軍のすべて』『自衛隊戦闘機はどれだけ強いのか?』『ジェット戦闘機 最強50』『F-22はなぜ最強といわれるのか』(サイエンス・アイ新書)など多数。日本テレビ客員解説員。
【カメラマン】赤塚 聡(あかつか さとし)
1966年岐阜県生まれ。航空自衛隊の第7航空団(百里基地)で要撃戦闘機F-15Jイーグルのパイロットとして勤務。現在は航空カメラマンとして航空専門誌などを中心に作品を発表するほか、執筆活動やDVDソフトの監修なども行っている。日本写真家協会(JPS)会員。おもな著書は『ドッグファイトの科学』(サイエンス・アイ新書)。
1954年12月、北海道札幌市生まれ。1977年3月、立教大学社会学部卒業。1984年1月、月刊『航空ジャーナル』の編集長に就任。1988年6月、フリーの航空・軍事ジャーナリストとなる。航空専門誌などへの寄稿だけでなく新聞、週刊誌、通信社などにも航空・軍事問題に関するコメントを寄せている。著書は『徹底検証! V-22オスプレイ』『ユーロファイター タイフーンの実力に迫る』『第5世代戦闘機F-35の凄さに迫る!』『世界最強!アメリカ空軍のすべて』『自衛隊戦闘機はどれだけ強いのか?』『ジェット戦闘機 最強50』『F-22はなぜ最強といわれるのか』(サイエンス・アイ新書)など多数。日本テレビ客員解説員。
【カメラマン】赤塚 聡(あかつか さとし)
1966年岐阜県生まれ。航空自衛隊の第7航空団(百里基地)で要撃戦闘機F-15Jイーグルのパイロットとして勤務。現在は航空カメラマンとして航空専門誌などを中心に作品を発表するほか、執筆活動やDVDソフトの監修なども行っている。日本写真家協会(JPS)会員。おもな著書は『ドッグファイトの科学』(サイエンス・アイ新書)。