カルチャー
2014年8月14日
「エボラ」だけではない恐怖の出血熱ウイルス
『殺人ウイルスの謎に迫る!』より
殺人ウイルスはまだある ~そのほかの危険なウイルス
ほかにも、ラッサウイルスの親せき筋にあたるアレナウイルス科の「フニンウイルス」がアルゼンチンで、「マチュボウイルス」がボリビアで、「グアナリトウイルス」がベネズエラでと、危険なウイルスが続々と登場しています。いずれも南米で発見され、同じような出血熱を起こしていました。
「アルゼンチン出血熱」は1957年に、「ボリビア熱」は1959年に流行しました。これらのウイルスは土着のネズミが自然宿主であることがわかっています。
1998年にはマレーシアで、日本脳炎とは異なる、新しい脳炎ウイルスが発生しました。「ニパウイルス」と呼ばれる新しいパラミクソウイルスです(写真4)。コウモリが自然宿主であり、ブタに肺炎を起こします。このためマレーシアではブタ100万頭が殺処分されました。
ニパウイルスは、ブタから人に乗りうつって脳炎を発生させ、その致死率は40%に達します。最近ではバングラデシュで2003年に17人が感染し8名が死亡、2004年には53人が感染して36人が死亡、2005年には32人が感染、12人が死亡しています。
このように、20世紀後半になって新しく見つかった病気を新興感染症、その病原体を、ウイルスが多いので「エマージングウイルス(新興ウイルス)」と呼んでいます。エイズもエマージングウイルスです。
際限のない開発で未知のウイルスに遭遇してしまう
大阪駅の近くは梅田と呼ばれていますが、1950年代に梅田界隈に「梅田熱」というものが流行りました。闇市が軒を並べていたころのことで、衛生状態が悪いうえにネズミが走り回っていました。
このネズミたちがウイルスをまき散らして、人の腎臓を傷めて出血熱をだしました。「腎症候性出血熱」が正式な病名です。このネズミの糞でウイルスが人にうつったのです。
それがあとになって「ハンタウイルス」によることがわかりました。ハンタウイルスは朝鮮半島の38度線近くで発見されたウイルスですが、いまや世界中の港湾施設に棲んでいるネズミに寄生しているようです。
日本でもネズミを扱っている大学や研究所では、このウイルスを警戒しています。いったんこのウイルスがネズミ小屋に入り込むと、すべての実験動物を殺処分にしてから完全に消毒しなければなりません。研究者からは大変恐れられているウイルスです。
最近、米国の西部で先住民から、肺炎を引き起こすウイルスが見つかりました。ハンタウイルスの仲間なので「ニューハンタウイルス」と呼んでいます(写真5)。東南アジアにも、いくつかのエマージングウイルスが見つかっています。ブタを扱っている人が感染して、重症になるケースがありました。
こうしてさまざまなエマージングウイルスが見つかっているのは、最近ウイルスを分離して解析する方法が飛躍的に進歩し、いままで未知であった病原体がどんどん明らかにされるようになったからです。手つかずであったジャングルなどが開発、開墾されて、人が新しい病原体に遭遇するようになってきたことも一因でしょう。
病原体のほとんどがウイルスであることも興味をそそります。生物種の一種につき数百の異なるウイルスが住みついているとすると、大変な数のウイルスが地球にいることになります。寄生している種に病気を起こさなくても、ほかの生物にうつると病気を引き起こすこともあり、エマージングウイルスはそうした状況を反映しています。
(了)
【著者】畑中正一(はたなか まさかず)
1933年、大阪府生まれ。1958年、京都大学医学部卒業。1963年、京都大学大学院医学系修了(医学博士)。京都大学ウイルス研究所所長、塩野義製薬医科学研究所所長、同医薬研究開発本部長、塩野義製薬代表取締役副社長などを歴任。京都大学名誉教授。おもな著書に『殺人ウイルスの謎に迫る!』(サイエンス・アイ新書)、『ウイルスは生物をどう変えたか』(講談社)、『キラーウイルスの逆襲』(日経BP社)、『殺人ウイルスへの挑戦』(集英社)、『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』(集英社、共著)などがある。
1933年、大阪府生まれ。1958年、京都大学医学部卒業。1963年、京都大学大学院医学系修了(医学博士)。京都大学ウイルス研究所所長、塩野義製薬医科学研究所所長、同医薬研究開発本部長、塩野義製薬代表取締役副社長などを歴任。京都大学名誉教授。おもな著書に『殺人ウイルスの謎に迫る!』(サイエンス・アイ新書)、『ウイルスは生物をどう変えたか』(講談社)、『キラーウイルスの逆襲』(日経BP社)、『殺人ウイルスへの挑戦』(集英社)、『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』(集英社、共著)などがある。