ビジネス
2014年12月8日
「見えないユーザーを知る」ことがWebビジネス成功の秘訣
『ユーザ中心ウェブビジネス戦略』より
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サイトの顧客を徹底的に知ることが重要


 私は、これまでWebビジネスで成功している企業をいくつか見てきましたが、それらの成功事例には、4つの共通するポイントがありました。

(1)サイトの顧客=ユーザーを徹底的に知っている
(2)ユーザーを知った上でサイト上でのコミュニケーション設計をしている
(3)事前に仮説検証をしている
(4)事後に効果検証をしている

 この中で特に重要なのは、(1)の「サイトの顧客=ユーザーを徹底的に知っている」ことです。

「ユーザーを知るなんて当たり前。もっと違う方法があるはずだ」

 と思われるかもしれませんが、特にインターネットの世界では、この当たり前のことができていないのです。

 アメリカのユーザーエクスペリエンスコンサルティング会社Adaptive Pathの創業者であるジェシー・ジェームス・ギャレット氏は、自著『Web戦略としての「ユーザーーエクスペリエンス」』(毎日コミュニケーションズ)の中でWebサイトは「セルフサービス製品」だと定義しています。つまり、Webサイトの利用はすべてエンドユーザーに任されるのです。

 このこと自体は当たり前のようですが、作り手側にとっては大きな変化です。従来の業務システムやソフトウェアであれば、サポート可能な場合が多く、「多少使いづらくても/ニーズに合致していなくても、何とか使ってもらえる」という状況がそれなりに成立したと言えます。

 しかし、Webサイトはセルフサービスメディアであり、その利用は個人の意思と勘に依存します。このような前提でWebビジネスの成功に必要な要件は、ユーザーの意思・特徴・動機の理解に他なりません。ユーザー任せになるのであれば、そのユーザーを事前に知っておくことが何より重要になるのです。

 ユーザーを知るといっても、Webの世界ではユーザーの姿が見えません。そのため、アンケートやアクセスログなどのデータによる定量分析が脚光を浴びますが、これだけでユーザーを把握することには限界があります。「実際のユーザーがどのようにサイトを使うか」というユーザー行動観察調査などの再現試験による定性分析が必要となるのです。

 ここで知っておかなければならない範囲は想像以上に広く、ユーザーがサイトに訪れる前後の状況、サイト使用中に同時並行で見るサイト・行う作業など、一連の行動とその時々のニーズや心理状態をすべて把握して初めてユーザーを知ることになります。

 このようにWebサイトという「点」だけを見るのではなく、その前後左右の状況である「線=文脈」を把握することで、実際にサイトがどう使われるのかがわかるようになるのです。このような文脈に相当する概念を「シナリオ」という言葉で表します。

 先のギャレット氏も述べていますが、Webサイトの企画を立てる際、サイトが「何を提供するか」については活発に議論されるのですが、「実際にサイトがどう使われるのか」については配慮が欠けてしまうことが多いのです。ユーザーはこちら側の意図を軽く越えて、突拍子もない使い方や捉え方をすることが往々にしてあります。そのような状況を配慮していないがために、多くのユーザーを逃しているサイトがとても多いのです。

 例として、私たちの会社がリニューアルを手がけた高級旅館のサイトについて見て行きましょう。

 このサイトでは、「旅館に来ていただいてから雰囲気などを楽しんで頂きたい」という思いから旅館全景の写真の掲載はしていませんでした。

 ところが、ユーザーの行動を調べてみたところ、ユーザーはサイト内で「旅館の全体像がわかる写真が見たい」と様々なページをチェックしていました。そして、「旅行予約サイト(一休)で調べてみて、ここがいいなと思っていたが、全景がわからないので予約はしない」といったユーザーが複数いたのです。

 なぜそこまで全景にこだわるのか聞いてみると、「以前、高級旅館に泊まりに行った際、その旅館の周辺には飲み屋さんが多く、落ち着いた雰囲気とは言えなかったので」といった話や、「昔泊まりに行った旅館で、実際にいくと建物が古くて想定と違いがっかりしたことがあったので」「アップの写真だけだとそういうところはわからないので」「高いお金を払うのであれば全体像を理解したい」といった話が出てきました。

 確かに言われてみれば、その通りだと合点のいく話でありましたが、いざサイト作りが始まると、そのサイトやページだけにフォーカスしてしまうため、ユーザーが持つニーズやそれが出てきた背景情報にまでは思いが至らないことが多いのです。

 実際にこの例では、旅館の全景写真を掲載するとともに、お部屋やお食事などユーザーニーズにきちんと答える形にリニューアルしたところ、予約数が大幅に増加しました。このようにユーザーがサイトを使う前後の文脈を理解した上で、Web上のコミュニケーションを考えると成功の確率が上がるのです。

文脈を理解してサイトを作る ※クリックすると拡大


 地道な仮説検証の繰り返しの中でユーザーを理解していくことは、華麗な戦略ではなく、地道で泥臭く、きめ細かいプロセスの作り込みの作業の連続となります。しかし、地道な活動の行く末に、確実な結果が待っているのです。

(了)


ユーザ中心ウェブビジネス戦略
顧客心理をとらえ成果を上げるプロセスと理念
株式会社ビービット 武井 由紀子/三木 順哉 著



【著者】株式会社ビービット
徹底したユーザ心理分析により、成果創出を実現するデジタルマーケティング支援カンパニー独自の方法論「ビービットUCD(User Centered Design)」を用いて、ユーザ行動や心理を科学的アプローチで解明し、企業のデジタルマーケティングを支援している。2000年3月設立以来、サントリー、三井住友銀行、ホンダ、NTTドコモ、ベネッセなどの大手企業のほか、マネックス証券、Yahoo! JAPANなどのウェブ先進企業へコンサルティングを行い、数多くのデジタルマーケティングを成功へと導いた実績がある。また、コンサルティング経験を元に広告効果測定ツール「ウェブアンテナ」を開発・提供し、すでに大手企業・ウェブ先進企業を中心に300社以上の導入実績がある。2012年7月には、台北オフィスを設立し、中国・台湾へ進出する日本企業、ならびに現地企業に対してコンサルティングを実施している。

【著者】武井 由紀子(たけい ゆきこ)
株式会社ビービット 取締役。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経てビービット設立に参加。金融機関、製造業を中心とする大手企業、およびウェブ先進企業へのコンサルティングに加え、ユーザ中心のデジタルマーケティング手法の開発に携わる。また、企業が科学的にマーケティングを行って確実に成果を創出するための広告効果測定ツール「ウェブアンテナ」の事業運営にも携わった経験を持つ。著書に『ユーザ中心ウェブビジネス戦略』『ユーザ中心ウェブサイト戦略』(SBクリエイティブ)などがある。

【著者】三木 順哉(みき じゅんや)
株式会社ビービット コンサルタント。東京大学大学院理学系研究科修了後、ビービット入社。飲料メーカー、通信事業会社、金融機関、教育サービスなど、大手企業を中心にデジタルマーケティングのコンサルティングに携わる。特に、ウェブサイトの戦略策定や、リニューアル、サイト立ち上げのプロジェクトに多数従事。それらの中で得た知見をもとに、ウェブサイトで成功するために最も重要なサイトコンセプトの立案・検証について、実践的な手法を『ユーザ中心ウェブビジネス戦略』(SBクリエイティブ)で解説している。
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