カルチャー
2015年3月17日
なぜ『艦これ』は、「ガチャ」に頼らずにマネタイズに大成功したのか
文・徳岡正肇
『艦これ』のマネタイズ構造
では実際に、『艦隊これくしょん』は、どのようにマネタイズしているのだろうか。『艦隊これくしょん』において、課金アイテムの売上は、以下の3系統が大きな柱となっていると報告されている。
(1)ゲーム内の固定インフラに対する投資
例えば、破損した艦艇を修理するためのドックは、デフォルトでは2レーンしかない。課金することで、これを4レーンまで拡張できる。拡張したドックのレーン数は、永遠に保証される。このような「ゲーム内のインフラ」を拡張するアイテムに対する課金は、多くの課金プレイヤーにとって「最初の課金アイテム」となる。
(2)資源や消費財の購入
上では「資源は自然回復するし、消費アイテムはゲームをプレイすることで入手できるので、課金アイテムとして購入する意義は薄い」と書いたが、これはヘビープレイヤー観点での観測とも言える。ライトに楽しむ場合(かつ「どうしても先に進みたい」場合)、資源や消費財を購入するケースも、まま見られる。
(3)個性を主張するアイテムの購入
『艦隊これくしょん』には、いわゆるアバターアイテムは存在しないが、提督の執務室をさまざまに彩る家具を課金アイテムとして購入できる。これらの家具は、ゲームの展開に対して有利にも不利にもならない、純粋な「こだわり」アイテムである。
中でも注目すべきは、(1)の固定インフラに対する課金であろう《(2)と(3)は、従来のマネタイズモデルでも頻繁に見られたものだ》。
F2Pとうたわれつつも、実際にプレイに深入りすると、課金上限は青天井になっているというのが、現状のF2Pゲームの多くに見られる状況である。これに対する「疲れ」は、モバイルゲーム市場においてすら、徐々に目立った声になってきている。
ここにおいて、「決まった金額を払えば、絶対にその効果が獲得できる」かつ「ゲームを続ける限り、永遠にその効果が保証される」といった課金アイテムは、『艦隊これくしょん』に限らず、少なからぬモバイルゲーム・オンラインゲームにおいて、幅広く見られる商品として成立しつつある。
これに加えて、ゲームデザインとして、「プレイヤー相互の競争や協力を、控えめに設計する」という点も、プレイヤーからは評価されることが多い。こと日本においては、「プレイヤー間の協力」という仕様は、プレイヤーに対して「同調圧力による、望まない課金」を呼びこむことでも知られている(「俺が課金してまで頑張っているのに、あいつは無課金で俺の努力にフリーライドしている!」という圧力)。プレイヤー間の関係性が希薄であることにより、逆にこういった、望ましからぬ空気が醸造されることもない。「自分が、自分のために、納得して課金する」という構造は、現状、プレイヤーから評価されうる構造なのである。
プレイヤー間の協力や競争という要素は、確かに、プレイヤー間の連帯感を醸造しやすい。そしてまた、「無課金プレイヤーの知人が課金した場合、課金する知人が増えれば増えるほど、その無課金プレイヤーが課金する確率は向上する」というのは、日本に限らず、世界的な統計的として表出している現実である。が、TwitterやFacebook。LINEなど、さまざまなSNSやメッセンジャーによって「知人」とつながっているのが一般的ないま、「ゲーム内でまで、無理に交友関係を構築・強化する機能を持たせなくても構わない」ということを、『艦隊これくしょん』は実例として示したと言えるだろう。
このように、ブラウザゲームは、現状のゲームシーンに対する一種のカウンターとし て、しばしばブレイクしてきたことがわかる。これまで日本でブラウザゲームがヒット してきた状況を振り返ると、
・月額課金ではなく、無料でプレイできるオンラインゲームとして(黎明期)
・ハイスペックなPCでなくてもプレイできるMMOゲームとして(『ドラゴンクルセイド』『ブラウザ三国志』)
・過度な競争ではなく、自分のペースで楽しめるオンラインゲームとして(『サンシャイン牧場』)
・モバイルで隙間時間にプレイできるオンラインゲームとして(『怪盗ロワイヤル』)
・青天井の課金ではなく、また課金するとしてもそのペースや結果を自分でコントロールできる。かつ、「ソーシャル性」をゲームから強要されないオンラインゲームとして(『艦隊これくしょん』)
ヒットしたブラウザゲームは、王道を行くというよりは、そのときそのときのローカル(国レベル)なゲームシーンが、密やかに求めている願望を実現してきたゲームである、という特徴がある。
もちろん、このことは他のゲームにも一定レベルで共通する特徴ではある。が、特にブラウザゲームにおいてこの傾向が顕著な理由としては、
(1)開発コストが低い
ブラウザゲームは比較的開発コストが低く、実験的・野心的なゲームをリリースしやすい(『艦隊これくしょん』は、まさにそういう野心的なゲームであった)
(2)リリース後もゲームの調整や新機能追加が容易
アプリをインストールさせるゲームではないため、細かなバランス調整がスピーディ&容易
(3)「ブラウザ」という多くの非ゲームユーザーが触れるプラットフォームで動く
非ゲーマーが触れる機会が多いため、潜在的な市場が大きく、かつ「その段階で、あまりゲームに触れていないユーザー」という新しい市場の意向を反映したゲームがヒットしやすい
といった理由が考えられる。
『艦隊これくしょん』のヒットに伴い、家電量販店ではWindowsタブレットの売れ行きが伸びたという報告を見るに(そしてコンシューマゲーム機のこれまでの動向を見るに)、ゲームのヒットタイトルには、ハードウェアの動向を左右する力がある。
2015年1月現在、『艦隊これくしょん』のシステムをリファインし、日本刀を男子に擬人化した『刀剣乱舞』が大ヒットを始めている。これを見るに、日本におけるブラウザゲームの勢いはまだ継続しそうだ。
(了)
徳岡正肇さんの刊行記念トークイベントが決定しました
日時:2015年3月20日(金)19時~
場所:ブックファースト新宿店
詳細は、下記URLをご覧下さい。
http://www.sbcr.jp/topics/12295/