ビジネス
2015年4月15日
ビジネスという大海を渡るための「羅針盤」 ~稲盛和夫の言葉から
[連載] 一生成長し続ける人が大事にしている、五賢人の言葉【1】
文・小宮一慶

仕事に真剣に打ち込んではじめて羅針盤は出来上がっていく


 私がコンサルタントとして、もっとも重視しているのは、その経営者に「生き方の指針」があるかどうか、「正しい考え方」を身に付けているかどうかです。

 一度は成功を収めても、その後に大失敗をし、会社を潰してしまった経営者を、私は何人も見てきました。彼らのような失敗する経営者の多くは「生き方の指針」を持っていないか、間違った考え方を持っている人が多いのです。

 ビジネスマンが成功するために必要なのは、基本的には「思考力」と「実行力」です。思考力と実行力を備えていれば、成功にグッと近づきます。

 ただし、思考力と実行力のベースには「生き方」が必要になります。ここの部分が間違っていると、せっかくの思考力と実行力が無駄になってしまいます。極端な話、刑務所に入ってしまうことだってあるかもしれません。

 誰しも、若い頃は自分の羅針盤を持ち合わせていません。稲盛さんも、きっと若い頃は自分の羅針盤を十分にはお持ちでなかったと思います。

 しかし、自分が生涯打ち込める仕事を見つけることができれば、そこから羅針盤は出来上がっていきます。

 「これこそ自分の仕事だ」「自分にはこの道しかない」と悟り、また、その仕事を何のためにやっているのかということを模索しながら、やるべき仕事以外にわき目も振らずに専念する中で、仕事で苦しみ、真剣に考え、そして先人に学ぶことによって、自分自身の哲学が生まれてきます。「正しい考え方」が身につくのです。

 そして「生き方の指針」や「正しい考え方」があれば、次に仕事や日々の生活の中で障害に突き当たったとき、自分の判断を正しい方向に導いてくれる基準になります。

 稲盛さんが京セラの仕事以外に、まったく畑違いの第二電電の設立、JALの再建をやり抜くことができたのも、自分の基準となる羅針盤があったからこそです。違うビジネスに取り組んでも、しっかりとした経営や人生の判断基準を持っていれば困ることはないのです。

 「生き方の指針」を身につけるには、仕事に打ち込むこと以外にも、古典を読む、先輩らの話に耳を傾けるなど、いろいろなことが必要です。

 大切なのは、日々学び続けることです。ほんの少しの成功で驕ってしまうと、学ぶことをやめてしまい、道を外してしまうことも起こります。そうならないためには、謙虚な気持ちで学び続けることです。

 私も2500年前に書かれた古典の『論語』や、松下幸之助さんの名著『道をひらく』などを日々熟読しています。

 「自分は正しい生き方をしているか」「驕り、慢心し、道を外してはいないか」――常に自問自答しながら、仕事に打ち込み、学び続けることによって、羅針盤――「生き方の指針」は形作られていくのです。

(了)




一生成長し続ける人が大事にしている、五賢人の言葉
小宮一慶 著



小宮一慶(こみやかずよし)
経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役。十数社の非常勤役員も務める。 1957年、大阪府堺市生まれ。81年、京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、93年にはUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。94年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2012年、名古屋大学経済学部非常勤講師に就任。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『社長の心得』(ディスカヴァー)、『「1秒! 」で財務諸表を読む方法』(東洋経済新報社)、『日本経済が手にとるようにわかる本』(日経BP社)、『コンサルタントの仕事力』(朝日新聞出版)、『バカになれる人はバカじゃない』(サンマーク出版)、『ドラッカーが『マネジメント』でいちばん伝えたかったこと。』(ダイヤモンド社)、ほか多数。