ビジネス
2015年4月27日
「ピケティ」が私たちに教えてくれること
インタビュー・安部徹也
トマ・ピケティによる格差と資本をめぐる本は、各国で経済書としては異例の大ベストセラーとなり、日本でも『21世紀の資本』(邦題。みすず書房刊、山形浩生・守岡桜・森本正史 訳)として発行され、反響を呼んでいます。この700ページにも及ぶ本書が、私たちに教えてくれることはなんなのか。『マンガですぐわかる!ピケティと21世紀の資本論』をご執筆された安部徹也先生に話を聞いてみました。
『マンガですぐわかる!ピケティと21世紀の資本論』の著者・安部徹也さん
本書のテーマは格差なんです。今、日本でも、格差社会は1つの問題になっていますが、この本で明らかになったことは、私たちの社会のもとになっている資本主義というものは、放っておけば格差はますます拡大し、これを自然に解消するメカニズムは働かないということなのです。
──格差は拡大する一方なのですか。
ピケティは、それを「r>g」という計算式で表しています。rは、資本によって得られる収益率のことです。これは、株式投資や不動産投資によって得られる利益ですね。gは、所得の成長率。たとえば、皆さんがもらっている給料の伸び率、のことです。ピケティは、資本から得られる収益率は、給料の伸び率よりも常に大きいことを、膨大なデータで実証しました。つまり、資本を持っている人はますます富んでいくし、持っていない人(給料だけで暮らしている人)との差は広くなる、ということです。
──なるほど。でも、こんな話を聞くと、一生貧しいままという気がして、暗い気持ちになりますね。
政府に対しては、「世界的な資本税」というものを導入するよう提案しています。不動産や株式、預金、事業資産などすべての資産について、世界レベルで協調して累進的な税金をかけようというものです。累進的というのは、評価額が大きければ大きいほど、税金の額も大きくなる、ということですね。
──そんなことは実際に可能なのでしょうか?
国内でなら、これに似た税金はすでにありますよね。
──でも、世界中でやっていこうとすると、大変ではないですか?
この方法についても、ピケティはきちんと考えていて、銀行の個人資産データを活用しようというものです。これを国際レベルに広げることができれば、世界でどの個人がどれだけ資産を持っているのかがひと目でわかります。ただ、本当に実現しようとなると、やはり各国の利害関係がからみますし、相当な困難を伴うと考えられています。
──じゃあ、やっぱり、会社員は貧しいまま、なんですかね。
そんなことはないですよ。ピケティは、格差を縮める有効な方法として、『知識の普及と訓練や技術への投資』を挙げています。僕は学ぶことによって、格差は縮められるのではないかと思っています。
──どんなふうにですか?
『マンガですぐわかる ピケティと21世紀の資本論』の最後にも、私からの提案として書かせていただいたのですが、g型からr型に仕事の仕方を変えることはできると思うのです。
1つめは「自らが資本家になること」。労働による所得だけの場合、資本家としての所得を加えよう、ということです。
2つめは「自らの高い成長率を実現すること」。高い成長率の企業で働くこと、個人で高い成長率を実現すること。そのためには、仕事の仕方も変わると思います。
3つめは「自分という資産に投資すること」です。
安部徹也氏(あべてつや)
太陽神戸三井銀行勤務後、米国ビジネススクール留学を経て、現在ビジネス教育及び経営コンサルティングを主業とする株式会社 MBA Solution代表取締役。日本におけるMBA教育の普及を目指す一般社団法人日本MBA協会の代表理事も務める。ファイナンスも得意とする。
太陽神戸三井銀行勤務後、米国ビジネススクール留学を経て、現在ビジネス教育及び経営コンサルティングを主業とする株式会社 MBA Solution代表取締役。日本におけるMBA教育の普及を目指す一般社団法人日本MBA協会の代表理事も務める。ファイナンスも得意とする。