カルチャー
2015年5月19日
なぜ自衛隊は、国産拳銃を装備できないのか?
文・かのよしのり
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自衛隊が装備しているSIGザウエル社の拳銃「P220」 (写真/陸上自衛隊)

 自衛隊が装備している9mm拳銃は、スイスとドイツの合弁会社SIGザウエルが開発した「P220」です。メカ的にはよい拳銃ですが、ドイツ人の手に合わせたサイズで、日本人の手にはグリップが太すぎます。なぜ、高い工業力を持った日本が、拳銃程度のものを、もっと日本人の手に合ったサイズでつくれないのでしょうか?

 筆者は中国が独自開発して装備している92式拳銃を撃った経験があります。使用している弾は、欧米や自衛隊が装備している9mmルガー弾です。20世紀中、中国軍はトカレフ弾を使っていましたが、21世紀になって欧米と同じ9mmに切り替えました。この拳銃は、「さすが東洋人が設計した銃だ、握りやすさが違う」と驚くほど手にフィットしました。しかも、その握りやすいグリップで、弾は15発入ります。これより太くて握りにくい自衛隊のP220が9発だというのに、です。

92式拳銃。口径9mm版のほか、防弾チョッキを撃ち抜くことを狙った小口径高速弾の5.8mm版もある
(写真/Imaginechina、時事通信フォト)

 我々は中国製品について「パクリばかりしている」「独自性がない」と、よくいいますが、こと拳銃については中国のほうが独自のものを開発し、日本は独自開発ができないのです。これはなぜでしょうか?

 理由は、日本人の銃アレルギーにあります。日本人は「銃=悪」という「宗教」に取りつかれています。自衛隊のイベントで展示している銃に手を触れることさえ「銃刀法違反だ」と騒ぐ輩がいます。これは民主主義国家として異常なことです。

 そもそも、国民が銃についての知識を持つことは民主主義の基礎です。自衛隊の装備品は、国民の税金で買ったものであり、有事にはそれが国民を守り、隊員の生死を左右する武器です。それがどういうものであるか、国民は実際に撃ってみて「なるほどいい銃だ。税金のむだ使いではない」と納得して当然です。それがどういう性能のものであるか、国民の「知る機会」さえ閉ざすというのは、民主主義国家にあるまじき異常なことです。

 しかも、中国国民は、日本国民にはない「知る機会」があるのです。中国の軍需産業「北方工業公司」の射撃場では、弾代を払えば一般国民が、中国軍の軍用銃も、公司が研究用にコレクションしている諸外国の銃も撃ってみることができます。

 中国国民は「米国のM16ライフルより、我が国の95式小銃のほうが反動が強いのだな」といったことを体験できるのです。「普段、我々は『中国の工業製品によいものはない』と思っているが、人民解放軍の装備している銃は、諸外国のものと比べて遜色ないではないか」ということを確かめられるのです。

 独裁国家である中国でそれができて、民主主義国家であるはずの日本でそれができないのは異常なことです。

 日本国民は、この異常を異常と思わない異常な国民です。日本人は、学校で「日本は民主主義国家だ」と教わったから「日本は民主主義国家だ」と思っているだけです。実は日本人の精神構造は、全然、民主主義ではないのです。国民に、「自分が民主主義国家の主権者である」という自覚がないから、「自衛隊の記念日に展示されている銃に触れることさえだめだ」ということを無批判に受け入れてしまうのです。

 そうして、銃のことを何も知らない国民になり、銃の開発に携わる人にさえも、いろいろな銃に触れてセンスを磨く機会を与えないような制度になっていることを「おかしい」とさえ思わない国民になっています。この結果、日本では自衛隊に銃を納入している会社の技術者でさえ銃に関する知識が乏しいのです。

 いろいろな銃を撃ち比べてみた体験が乏しいようでは、よい国産銃の開発など、できるわけがありません。これは国家、国民の恥でありましょう。

(了)


拳銃の科学
知られざるハンド・ガンの秘密
かのよしのり 著



【著者】かのよしのり
1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年、定年退官。著書に『重火器の科学』『狙撃の科学』『銃の科学』(サイエンス・アイ新書)、『鉄砲撃って100!』『スナイパー入門』(光人社)、『自衛隊89式小銃』『中国軍VS自衛隊』(並木書房)などがある。近著は『拳銃の科学』(サイエンス・アイ新書)
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