カルチャー
2015年5月29日
結婚! 出産! 一流選手がプライベートを大切にする理由
文・遠藤友則
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世界中から一流が集うセリエA。その中でもさらに選ばれたトップ集団である「ACミラン」。そんな超一流の選手たちは、失敗や挫折の「壁」をどうやって乗り越えているのでしょうか。日本人でありながらミランのトップトレーナーとしてACミランの黄金期を支え、世界最高峰のクラブでシェフチェンコ、ガットゥーゾ、インザーギ…などの超一流から絶大な信頼を集める遠藤友則さんの著書『一流の逆境力』から、一流選手がプライベートを大切にする理由を紹介します。


夫婦ゲンカでパフォーマンスが落ちる!?


 サッカー選手の結婚や子どもが生まれたニュースなどが続いています。

 実はサッカー選手、とくにミランのような名門チームでは、プライベートを本業であるサッカーと同じか、それ以上に大切にしています。

 なぜでしょうか。

 それは、ビジネスでもサッカーでも、私生活のトラブルや悩みを抱えた状態で最善のパフォーマンスを発揮するのはとても難しいからです。

 自分ではベストを尽くしているつもりでも、頭の中のどこかに、プライベートの悩みがあると、集中できないもの。100%のパフォーマンスを出すためには、私生活の充実を欠くことができないのは当たり前かもしれません。

 サッカー選手が力を発揮できない大きな原因の一つが家族です。

 たとえば、朝、奥さんと大喧嘩をしたとか、あるいは子供のことで心配事を抱えているという状態で仕事に最善を尽くすのはとても難しいことです。

 こう書くと驚く人もいるかもしれません。

「超一流の選手が奥さんとの喧嘩で力を出せないものなのか?
プロフェッショナルなんだから、いつ何時もベストを尽くすべきでは?」

 たしかに日本人は「職人は親の死に目に会えない」などと、仕事を何よりも最優先する「美学」があります。しかし他国の文化は違います。どんなに一流の選手でも家族の問題は、プレーに影響を与えますし、それほど家族を重要視しています。

 だからこそフロントは、選手同様に家族も大切にします。ACミランでは、子供や奥さんといった家族の問題は真っ先に対処し、選手が試合に集中できる環境を作るように努力しています。

 たとえば子どもが試合当日に熱が出たとき。

 イタリア人選手の家族なら問題なく対処できるかもしれませんが、外国人選手であれば、全く医療システムが違う中で、奥さんが途方に暮れてしまいます。ましてやイタリア語を話せないとなると、選手は心配で試合どころではなくなってしまいます。

 クラブのサポートがこれほど大きいというのは、家族やプライベートの悩みなどのメンタル面が選手のパフォーマンスに与える影響が大きいからなのです。

「調子が悪い」の正体を見抜く


 選手の不調は、怪我から生まれるものと思いがちですが、そうとばかりはいえません。精神的に不安定なことで調子に乗れないことは、よくあることです。

 それを私たちはどうとらえるべきでしょうか。

 イタリアでは、ある程度の規模のクラブには必ず心理学者を専属(あるいは非常勤)で置いています。喜怒哀楽の激しい選手が落ち着いてプレーするための精神的なカウンセリングは、肉体的な怪我の治療と同様にとらえているのです。

 私がブラジルワールドカップで、ガーナ代表に帯同したときにも心理学の専門家を帯同させていました。個性ある一流の力を100%発揮させるには、精神面でのサポートも当然と考えているのです。

 私から見ると、日本人は精神的にとても強いように感じます。
 だから、チームに心理学者のサポートをさほど必要としないのかもしれません。

 しかし、力が発揮できない原因をメンタルに求めることは、一つの考え方ではあるはずです。日本サッカーだけでなく、あなたの職場でも仕事のパフォーマンスが落ちたと感じたら、まずはプライベートの問題に目を向けてみてはいかがでしょうか。

「自分一人で解決する」「気合で乗り越える」だけでない、第三の解決策が見えてくるかもしれません。

(了)


一流の逆境力
ACミラン・トレーナーが教える自分の磨き方
遠藤友則 著



遠藤友則(えんどう・とものり)
ACミラン メディカル・トレーナー。日本体育協会公認アスレティックトレーナー。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師。1961年静岡県生まれ。20歳のときに膝を怪我したことを機にトレーナーの道に進む。1991年より清水エスパルスのチーフトレーナーとして勤務。1999年に元イタリア代表のマッサーロに招かれて、イタリアに渡るとACミランのトレーナーとして勤務する。日本人がイタリアサッカー界で働くこと自体異例といわれる中、16年間、監督・メディカルスタッフが代わってもクラブと契約更新ができるほど、選手からの絶大な信頼がある。その治療はチームメイトから「遠藤チェック」と呼ばれ、試合の前日には、多くの選手が遠藤のチェックを受け、試合に臨んでいる。在籍16年間のチームの成績は、セリエA優勝(2003-04年、2010-11年)、チャンピオンズリーグ優勝(2002-03年、2006-07年)トヨタカップ優勝(2007年)、コッパイタリア優勝(2002-03年)などと名実ともに、ミランの黄金期を支えた。さらに2006年ドイツワールドカップ本大会(ウクライナ代表帯/ベスト8)、2014年ブラジルワールドカップ本大会(ガーナ代表帯同)などナショナルチームのサポートとしても実績を上げている。2015年6月に16シーズン務めたACミランを退団、7月より千葉市の鍋島整形外科を拠点にスポーツ医学の発展や地域振興への貢献の道を探るなど次なる挑戦を続けている。
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