カルチャー
2015年6月5日
マグナムだから強いとは限らないのはなぜか?
文・かのよしのり
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よく刑事ドラマなどで出てくる「22口径の拳銃」や「9mmの弾丸」という表現。「●●mmの~」という表記は、最近では自衛隊関連のニュースなどでも用いられますが、きちんと理解している人は少ないのではないでしょうか。サイエンス・アイ新書『拳銃の科学』(かのよしのり 著)より、銃の口径について解説しましょう。


銃の口径の表し方


 口径とは、簡単にいってしまえば弾丸の直径です。しかし、厳密に考えると、たとえば火縄銃のように銃口から弾丸を押し込むような銃では、銃腔直径より弾丸の直径のほうが0コンマ何mmか小さくないと押し込むことができません。

 また、現代の銃は銃腔にライフリングが施されていて、弾丸はライフリングの山に食い込んで回転を与えられるので、弾丸の直径は谷径に一致していなければなりません。大抵の銃は口径を山径で表している(例外もありますが)ので、弾丸の直径は口径より0.1~0.2mm大きいことになります。

 口径は、大抵の国ではmmで表しますが、米国など一部ではインチで表しているものが多くあります。1インチは25.4mmです。

 よって、口径45というのは100分の45インチ、つまり11.4mmです。500S&Wとか357マグナムのように3ケタの数字で表しているものもありますが、これは1000分の~インチを表します。

「どういう弾薬は100分の~インチ、どういう弾薬は1000分の~インチで表す」という決まりはないのですが、なんとなく習慣として、マグナムに1000分の~インチが使われることが多くなっています。

 しかし、口径の表示は、正確な寸法を表しているとは限りません。38スペシャルとか38S&Wとか38スーパーとか、口径38と表されている大抵の弾薬の弾丸の直径は100分の36インチですし、41ロングコルトは0.386インチ、有名な44マグナムは実は0.429インチだったりします。ですから、「口径の数字はその弾薬の商品名にすぎない」と認識しておくべきです。

口径と薬莢の長さ(イラスト/青井邦夫) ※クリックすると拡大

 ヨーロッパ式の弾薬は、口径と薬莢の長さで表します。たとえば、9×19というのは口径9mm、薬莢の長さが19mmで、9mmルガーとか9mmパラベラムと呼ばれているものがこれです。

 9×18は9mmマカロフと呼ばれているもので、ロシアのマカロフ拳銃の実包がこれです。

 7.62×25は7.62mmトカレフ実包です。7.62×39Rというのはロシアのナガン・リボルバーのカートリッジですが、このように末尾にRが付いているのはリムド型の薬莢であることを示しています。

 この表し方は、本来はインチ表示である米国のカートリッジを表すこともできます。たとえば380ACPというカートリッジは、9×17という表記になります。

22口径のマグナムより、普通の38口径のほうが強力


357マグナム弾を撃てるS&W M686(6インチ)。薬莢が短い38スペシャル弾も撃てる

 マグナムというのはワインの大ビンのことです。標準サイズのボトルの2倍ほどの容量のものをいいます。

 ボトルが大きくてもビンの口の大きさは同じです。そこから転じて、口径が同じで薬莢が大きい(火薬量が多い)弾をマグナムというのです。

 たとえば有名なのは44マグナムです。0.58gの火薬で15.6gの弾丸を230m/秒で発射する44スペシャルという弾があるのですが、同じ口径で薬莢がやや長く、1.56gの火薬で15.6gの弾丸を436m/秒で発射できる弾がつくられたとき、44マグナムと名付けられたのです。

 44と呼ばれていますが、先述したように実は口径0.41インチで、少し誇大表示しています。これは黒色火薬時代、口径44というのが普及していたので、無煙火薬の口径41実包をつくったとき、威力が弱いように思われてはいけないということで44と呼んだのです。

左から順に、22ロングライフル、22ウインチェスター・マグナム・リムファイア、38スペシャル、357マグナム、44スペシャル、44マグナム、単3電池

 22ウインチェスター・マグナム・リムファイアという弾があります。これは従来、22ロングとか22ロングライフルという弾があり、22ロングライフルは薬莢の長さが15.6mmで、2.6gの弾丸を380m/秒で発射します。これに対し薬莢の長さが26.8mmあり、2.6gの弾丸を620m/秒で発射できるものがつくられ、マグナムと名付けられました。

 しかし、マグナムとはいえ22リムファイアの火薬量など、マグナムでない44スペシャルはもちろん、9mmルガーなどに比べてもずっと少ないものです。マグナムが強力だというのは、あくまでも同じ口径での比較の話なのです。

(了)


拳銃の科学
知られざるハンド・ガンの秘密
かのよしのり 著



【著者】かのよしのり
1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年、定年退官。著書に『重火器の科学』『狙撃の科学』『銃の科学』(サイエンス・アイ新書)、『鉄砲撃って100!』『スナイパー入門』(光人社)、『自衛隊89式小銃』『中国軍VS自衛隊』(並木書房)などがある。近著は『拳銃の科学』(サイエンス・アイ新書)
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