カルチャー
2015年6月11日
容器を入れ替えると爆発することも!?──「混ぜるな危険」の真実
[連載] 本当はおもしろい化学反応【2】
文・齋藤勝裕
  • はてなブックマークに追加

アルカリの危ない反応


 アルカリの正式名は塩基といい、酸と対立する概念です。酸と塩基は化学で非常に大切な考えなので、どの分野でも使えるように3種類の定義があります。なかでもいちばんポピュラーなのは、酸とは水素イオンH《↑+》をだすもので、塩基とは水酸化物イオンOHをだすものという定義でしょう。水は両方をだすので両性化合物といわれます。

身近な塩基


図3 身近な塩基性物質 ※クリックすると拡大

 酸は身近なところにありますが、塩基を身近な例で探すのは困難です。教科書でも、塩基の例といえば石けんと灰汁くらいです。

 この場合の石けんは、洗剤一般の意味ではありません。昔ながらの油脂から得た脂肪酸(カルボン酸)R-COOHと水酸化ナトリウムNaOHから得られた脂肪酸ナトリウム塩R-COONaのことです。これを水に溶かすとOH-が発生します。

  R-COOH(脂肪酸)+NaOH(水酸化ナトリウム)
  → R-COONa(脂肪酸ナトリウム塩)+H2O(水)

  R-COONa(脂肪酸ナトリウム塩)+H2O(水)
  → R-COOH(脂肪酸)+Na+(ナトリウムイオン)+OH-(水酸化物イオン)

 いまどきの一般の洗剤は中性洗剤なので、塩基性ではありません。灰汁は灰を溶かした水ですが、いまの家庭で灰を見ることは少ないのではないでしょうか?

危険な塩基


 それでは、家庭にはまったく塩基がないかというと、そうでもありません。住宅用の洗剤やクレンザーなどには、弱い塩基性のものがあります。一般に使われることはありませんが、業務用の強力な洗剤にはかなり強い塩基性のものがあります。

 「酸と塩基はどちらがより危険か?」という質問には、濃度が大きく影響するので一概には答えられません。しかし、一般に強酸と強塩基を比べたら、強塩基のほうがこわいように思います。酸は皮膚のタンパク質を固めますが、塩基は溶かします。石けんを手につけるとヌルヌルするのは、皮膚が溶けているからなのです。

 温泉で「美人の湯」とか「ナマズの湯」といわれるものがあります。美人の湯に入ったからといって、顔の骨格が美人型になるわけではありません。皮膚がシットリするということです。一般にナマズの湯などといわれる温泉は、塩基性温泉が多く、少なからず皮膚を溶かしてヌルヌルにしていることが多いものです。

 もし強塩基が目に入ったら大変です。角膜が溶けて失明の危険があります。間違っても酸を加えて中和するなどという生半可な化学知識をひけらかしてはいけません。大量の水で洗い、一刻も早く病院に行ってください。

塩基の危険な反応


図4 塩基の危険な反応 ※クリックすると拡大

 2012年10月、東京の地下鉄車内で突然爆発事故が起きました。車内は騒然となり、乗客10人ほどが救急車で搬送されましたが、幸いにもけがは軽傷ですみました。

 原因は、ナント女性乗客がもっていたアルミニウムの飲料用の缶でした。飲料の入ったアルミ缶が爆発するはずはないのですが、そのときは中身が違っていました。女性はアルバイト先で強力な業務用洗剤の威力を知り、それを自分の家で使おうとしてアルミ缶に入れていたのです。業務用洗剤は強力な塩基でした。

 アルミニウムは特殊な金属です。酸とも反応しますし、塩基とも反応します。塩基との反応は下式のようになります。すなわち、水素ガスを発生するのです。栓がされた缶の中で行き場を失った水素ガスH2が、どうしようもなくなって缶を破裂させたのです。

  2Al(アルミニウム)+2NaOH(水酸化ナトリウム)+6H2O(水)
  → 2Na[Al(OH)4](アルミン酸ナトリウム)+3H2(水素)

(了)





本当はおもしろい化学反応
漂白剤の白さや混ぜると危険な理由など身近な化学反応の秘密がわかる!
齋藤勝裕 著



【著者】齋藤勝裕
1945年5月3日生まれ。1974年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。現在は名古屋市立大学特任教授、名古屋産業化学研究所上席研究員、名城大学非常勤講師、名古屋工業大学名誉教授などを兼務。専門分野は有機化学、物理化学、光化学、超分子化学。『マンガでわかる元素118』『周期表に強くなる!』『マンガでわかる有機化学』『マンガでわかる無機化学』『カラー図解でわかる高校化学超入門』(サイエンス・アイ新書)ほか、著書多数。
  • はてなブックマークに追加