スキルアップ
2016年11月16日
ビジネス戦略にも通じる「戦車の戦い方」とは?
文・木元 寛明
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「戦車」の存在を知らない人は、ほとんどいないと思います。しかし、戦車が「どのように戦うのか」、「何が戦いの勝敗を決めるのか」を正確に知っている人は少ないでしょう。北海道の機甲科部隊・第71戦車連隊の連隊長までつとめ、『戦車の戦う技術』(サイエンス・アイ新書)を著した、木元寛明氏(元・陸将補)は、「戦車の戦い方」は「ビジネス戦略」にも通じるものがあり、「集中させること」が重要だといいます。その理由を語っていただきました。


戦闘力の「集」「散」「動」「静」とは?


 日本海海戦当時(1905年5月)の連合艦隊参謀・秋山真之は、日本海軍きっての戦術家でした。

 戦術教官・秋山真之が、日露戦争の前後に海軍大学校で甲種学生に講述した内容が、講義録『海軍基本戦術第二編』として、まとめられています。

 秋山真之は講義録の中で、戦闘力の集・散・動・静の組み合わせにより、強いものが勝ち、弱いものが負ける、いわゆる「優勝劣敗」という戦理が成立する、と明快に言い切っています。

「集」――戦闘力は集めれば強くなる。
「散」――戦闘力は分散すれば弱くなる。
「動」――戦闘力は動かせば強化する。
「静」――戦闘力は静止すれば弱化する。

 戦車部隊の特性は、装甲により防護された正確な火力および機動力を駆使して衝撃効果(shock effect)を発揮し、目視距離内で戦闘して敵を圧倒撃破できることです。

 ここで誤解のないように補足しますが、現代戦では純粋な戦車部隊だけではなく、各兵種が一体となったコンバインド・アームズ(諸兵種連合部隊)で戦うことが基本であり、各国軍隊の常識となっています。

 戦車を基幹として機械化歩兵、自走砲兵などで編成する部隊が機甲部隊(armored force)、機械化歩兵を基幹として戦車、自走砲兵などで編成する部隊が機械化部隊(mechanized force)です。機甲部隊も機械化部隊も、すべての戦闘車両や支援車両は装甲化され、履帯(キャタピラ)で移動します。

 機甲部隊・機械化部隊の戦闘力を最大限に発揮するためには、「集」×「動」の組み合わせが最適です。したがって、このような部隊を集中して動かす「攻撃」は、戦闘力を最大限に発揮できる戦術行動なのです。

 逆に「防御」という戦術行動は「散」×「静」という組合せになり、戦闘力が分散し、かつ弱化してしまいます。

 集中の原則(mass)は、古今東西、列国が兵術の基本原則として重視してきました。『作戦要務令』綱領にいう「戦捷の要は、有形無形の各種戦闘要素を綜合して敵に優る威力を要点に集中発揮せしむるに在り」は、表現は古いのですが、不変の原則といえるでしょう。



戦車の戦う技術
マッハ5の徹甲弾が飛び交う戦場で生き残る
木元 寛明 著



木元 寛明(きもと ひろあき)
1945年、広島県生まれ。1968年、防衛大学校(12期)卒業後陸上自衛隊入隊。以降、第2戦車大隊長、第71戦車連隊長、富士学校機甲科部副部長、幹部学校主任研究開発官などを歴任して2000年に退官(陸将補)。退官後はセコム株式会社研修部で勤務。2008年以降は軍事史研究に専念。主な著書は『自衛官が教える「戦国・幕末合戦」の正しい見方』(双葉社)、『戦術学入門』『指揮官の顔』『ある防衛大学校生の青春』『戦車隊長』『陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式』『本当の戦車の戦い方』(光人社)。
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