カルチャー
2016年11月11日
「1日1万歩」が実は体に毒ってホント?──5千人・15年の追跡調査でわかった「奇跡の研究」とは
文・青栁 幸利
健康のために「ウォーキング」を始める人は4000万人いるといわれています。しかし、これまで「体によい」とされてきた歩き方の常識が、実は病気の引き金を引くものだったとしたら……。世界中から「奇跡の研究」と呼ばれ、NHK「おはようニッポン」「あさイチ」などでも特集されて大反響となった健康法をまとめた、青柳幸利さんの著書『やってはいけないウォーキング』から、「健康に効く歩き方」を紹介しましょう。
「毎日1万歩」で骨粗しょう症に
『やってはいけないウォーキング』(青栁 幸利 著)
「毎朝、犬の散歩を日課にしています」
「歩くだけじゃ物足りなくて、ランニングも始めました」
人それぞれに違いはありますが、何らかの形で「ウォーキング」を生活に取り入れている人はとても多いようです。
しかし、これまで健康によいと信じてきた歩き方が、実は「健康を害するもの」であったとしたら、あなたはどう思いますか......?
私は長年、生涯を通しての健康づくりの研究に携わってきました。
群馬県中之条町に住む65歳以上の全住民5000人にモニターとなっていただき、1日24時間365日の生活行動データを15年にわたって収集・分析し、身体活動と病気予防の関係について調査してきました。その結果、「誰もが健康であり続けられる歩き方」が存在することがわかったのです。
けれども、「歩き方」は、残念ながらまだまだ広くは知られていません。
そのため、「健康のためにちゃんと歩いているよ」と自負している人が健康を害してしまっているケースが、数多く見られるのです。
代表的なものが、「毎日1万歩を歩けば健康になる」というものです。
これは、かつて健康スローガンとして掲げられた「1日1万歩以上歩こう」が、世の中に広まったからのようです。しかし、毎日1万歩以上歩いていれば誰もが健康かといえば、決してそんなことはありません。逆に「1日1万歩」歩くことで、健康を害してしまうこともあるのです。
私が研究でお会いした老舗旅館の女将さん(当時77歳)は、毎日1万歩以上歩く生活を続けていたにもかかわらず、骨粗しょう症になってしまいました。
接客、部屋の掃除、配膳、そしてスタッフの教育など、老舗旅館の女将さんの仕事は山ほどあります。女将さんは、朝5時に起きて、夜の9時まで館内を歩き回る毎日を送っていました。
1日の歩数は、平均1万歩以上。同年代の平均である4000~5000歩を、大きく上回る数字です。
にもかかわらず、女将さんは骨粗しょう症を患ってしまったのです。
いったいなぜ、女将さんは骨粗しょう症になってしまったのでしょうか?
原因の1つに、着物を着た旅館の女将さん特有の歩き方が考えられます。
歩数が1日1万歩を超えてはいたものの、足を上げず、音を立てず、小股で静かに歩く毎日。運動による適度な刺激で、骨密度は保たれます。女将さんの歩き方は運動の刺激が弱かった、つまり歩き方の「強さ」の観点が抜け落ちていたわけです。
もう1つの原因は、館内で過ごす時間が多かったことです。
骨というのは、紫外線を適度に浴びることにより丈夫になります。一日中、太陽を浴びずに毎日を過ごしていたため、骨が弱くなってしまったのです。
「毎日1万歩以上歩いてさえいれば健康を維持できる」という誤った認識を、一度捨て去ってほしいのです。
青柳 幸利(あおやぎ・ゆきとし)
東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了、Doctor of Philosophy(Ph.D.:医学博士)取得。カナダ国立環境医学研究所温熱生理学研究グループ・博士号取得後研究員、奈良女子大学生活環境学部・助手 及び大阪大学医学部・非常勤講師などを経て、東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム・副部長。東京農工大学大学院連合農学研究科・非常勤講師及び星城大学大学院健康支援学研究科・非常勤講師などを兼任。高齢者の運動処方ガイドラインの作成に関する研究に従事し、種々な国家的・国際的プロジェクトの主要メンバーとして先進諸国の自治体における老人保健 事業等の展開を支援している。
東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
トロント大学大学院医学系研究科博士課程修了、Doctor of Philosophy(Ph.D.:医学博士)取得。カナダ国立環境医学研究所温熱生理学研究グループ・博士号取得後研究員、奈良女子大学生活環境学部・助手 及び大阪大学医学部・非常勤講師などを経て、東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム・副部長。東京農工大学大学院連合農学研究科・非常勤講師及び星城大学大学院健康支援学研究科・非常勤講師などを兼任。高齢者の運動処方ガイドラインの作成に関する研究に従事し、種々な国家的・国際的プロジェクトの主要メンバーとして先進諸国の自治体における老人保健 事業等の展開を支援している。