カルチャー
2016年11月30日
職場やSNSではびこる「自分を平気で盛る」人たち
――ショーンK氏と対談した精神科医が語る「盛りたがる心理」
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 もちろん、経歴や学歴を盛る人を「普通の人」と呼ぶには抵抗があると言う人も多いと思いますが、私が言いたいのは、〝盛る〟ことが当たり前になっている今の時代において彼のような人は私たちの周りにいてもおかしくないように思えます。ある意味、時代の申し子的な存在だということです。言い換えれば、ショーンK氏は今の時代を象徴していると言うこともできるでしょう。

 最近のテレビを見ていて思うのは、「今は偉そうにしないと人気が出ない時代になっているな」ということです。
 たとえば毒舌で人気になっているタレントがいますが、カメラの前では先輩芸人に対しても威張ったり毒舌を吐いたりしてはいるものの、普段は腰が低く、楽屋での挨拶時にも「こんな芸風なものですから申し訳ありません」などと事前に詫びを入れているという話を聞きます。

 私もテレビの舞台裏を多少は知っているので、たぶんこのウワサは本当だと思っています。つまり、そのタレントは自分が売れるにはどうすればいいかと考えた中から生まれたキャラを演じているに過ぎないということです。もちろん、普段でも偉そうにしているタレントもいますが......。

 昔は、自分をよく見せるために見栄を張る人や、偉そうにしたり毒舌を吐いたりする人は嫌われたものですが、今は虚勢を張ったり、自分を偉そうに見せる人、つまり〝盛る〟人のほうが人気を集める時代になっています。

 橋下前大阪市長や芸能界を引退した島田紳助氏、あるいは2014年1月に亡くなったやしきたかじん氏みたいなタイプの人が人気になったのは、そんな時代の流れに乗ったからだと言うことができます。

 ショーンK氏は威張ったり偉そうな態度をすることはなかったかもしれませんが、少なくとも経歴や学歴を"盛る"ことで自分を偉く見せようとしたという点では、やはり今の時代の流れに乗って生きていたと言うことができるでしょう。

"盛った"ほうがますます有利な時代の到来


 今の時代は"盛る"ことが当たり前になっています。ということは、自分を盛るほうが時代の流れに沿っていると言うことができます。

 そんな社会の中でうまく生きていくために、自分を盛る生き方を選択する人もいるはずです。要するに、パーソナリティに問題のない人が演技をする場合もあるということです。

 つまり、自分とは違う自分を見せることで社会生活をうまく営める、あるいは自分とは違う自分を社会から求められるとすれば、あえて自分ではない自分を見せる生き方を選択する人がいても不思議ではないということです。

 そして、ショーンK氏も学歴や経歴の"盛り"はありましたが、それは彼にとって"盛る"ことが当たり前の社会に高度に適応するためのチケットのようなものだったと考えられるわけです。

 学歴や経歴の"盛り"がバレてからの彼のオドオドした態度や、泣きながら謝罪をしつつメディアから静かに(多くのメディアを集めて記者会見などを開かず)消えていった姿などを見ると、自分が〝盛った〟ことに対して罪悪感も違和感も抱いていないように見える小保方晴子氏や佐村河内守氏とはまったく違うことは明らかです。つまり、ショーンK氏は、演技性タイプの人に見られる特徴から外れているわけです。

 なお、『自分を「平気で盛る」人の正体』(SB新書)では、この記事で取り上げた「盛りたがる人」をはじめ、「演技性・自己愛性タイプの人」について詳しく解説していますので、ご興味のある方はぜひ参考にしていただければ幸いです。

(了)


自分を「平気で盛る」人の正体
和田秀樹 著



和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『医学部の大罪』(ディスカヴァー携書)、『東大の大罪』『この国の冷たさの正体 一億総「自己責任」時代を生き抜く』 (以上、朝日新書)、『テレビの大罪』『学者は平気でウソをつく』(以上、新潮新書)、『「自己愛」と「依存」の精神分析 コフート心理学入門』 (PHP新書)、『人と比べない生き方 劣等感を力に変える処方箋』『だから医者は薬を飲まない』(以上、SB新書)など多数。
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