カルチャー
2017年2月9日
あなたの周りにもいる「他人を平気で振り回す迷惑な人たち」
文・片田 珠美
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言行不一致で周囲を振り回す人たち


 こういう人に共通するのは、「自分は悪くない」と主張したい自己保身の欲求である。わが身を守りたいからこそ、事実とは違うことでも平気で言うわけで、この手の人ほど、自分の責任を追及されると、話題を巧妙にすり替えて逃げようとする。責任転嫁の達人であることが多いので、こちらが責任を押しつけられるかもしれない。

 職場であれば、どうしても嫌だったら退職という選択肢もあるが、家庭ではそうもいかない。たとえば、私の外来を受診した40代の専業主婦の女性は、理想の家族になるための提案をするくせに、その提案からかけ離れたことをする夫に閉口している。

 この夫は、理想の家族になるべく「家族のことを思いやる」「家族の誕生日は全員で祝う」「健康的な家族を目指す」といったことを思いつきで提案し、家族に強要するらしい。ところが、夫自身は、家族のことを思いやるどころか、とにかく自分の実家優先であり、それに対して妻が少しでも反論すると、すぐにカッとなる。

 また、家族の誕生日より友人との約束を優先し、妻の誕生日に平気で学生時代の友人と一緒に飲みに行く。おまけに、家族には健康的な生活を送るように口うるさく説教するくせに、自分はしょっちゅう深酒をして帰宅が午前様になる。一事が万事この調子なのだが、そのことを家族から指摘されると不機嫌になるという。

 こういう言行不一致の人はどこにでもいるが、それが家族の一員だと実に迷惑だ。何よりも困るのは、自分自身の言行不一致に気づいておらず、気づこうともしないことだ。そのせいで妻が「何を言っても無駄」と無力感にさいなまれ、うつになっても、その責任の一端が自分にあるとは夢にも思わないのが、他人を平気で振り回す人の特徴である。

 逆に、妻が夫を追い詰めているのに、そのことに全然気づいていない場合もある。たとえば、やはり私の外来を受診した30代の男性は、「家族サービスが足りない」「早く出世してほしい」などと妻からうるさく言われて、「帰宅拒否症になっている」と訴えた。  どうも、この妻は、夫には何かと求めてばかりいるのに、自分は夫に優しくするわけでもなく、家事を頑張るわけでもないようだ。そのため、夫は帰宅するのが嫌になり、最近では残業を進んで引き受けるようになったらしく、ネット上で「帰宅拒否症」という病名を見つけ、自分もそうではないかと思って受診したのだとか。

 このように、他人を平気で振り回す人は周囲に迷惑をかけるのだが、そのことに本人が気づいてない場合が多い。ときには、振り回されている側も気づいてないことさえある。

 あなたがもし誰かに振り回されてさんざんな目に遭っていたら、あるいは誰かに振り回されて嫌な思いをしたくないなら、振り回す人の実態や精神構造を知っておく必要がある。さまざまな問題は、振り回す人と振り回される人の相互関係の中で起こることが多いので、まずは、この相互関係を理解することが大切だ。

(了)


他人を平気で振り回す迷惑な人たち
片田 珠美 著



片田 珠美(かただ たまみ)
精神科医。広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析的視点から研究。 『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)は話題を呼び、大ベストセラーとなる。『プライドが高くて迷惑な人』『すぐ感情的になる人』(以上、PHP新書)など著書多数。
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