カルチャー
2017年3月7日
日本がステルス機「三菱X-2」を開発するワケ
文・青木 謙知
技術・ノウハウの伝承を途絶えさせてはいけない
さらに、実用機ではないものの、X-2のような高レベルの試験機を開発・製造することは、日本の航空技術界にシステム・インテグレーションを行う機会をもたらすことにもなります。
戦闘機に限らず、近年の航空機は高度技術を活用した複雑なシステムで構成されています。これらをうまく機能し合うようにしながら、1つの航空機にまとめ上げるのがシステム・インテグレーションです。各種技術の開発力とともに、一体化させて機能するようにさせられる能力の習得が必要であり、X-2の開発はそのチャンスをもたらしています。システム・インテグレーションについては、一世代前の戦闘機になりますが、三菱F-2の開発においても重要なテーマとされ、当時の開発陣はその技術などを習得しました。
ただ、こうしたノウハウを伝え続けていくことは難しく、常に伝承が可能になる機会を設けるのが最も効果的です。X-2は、この伝承を可能にする存在であり、ハード面だけでなく、知識・経験などといったソフト面でも、日本の航空産業界にとって重要な役割を果たすものです。
防衛省や航空自衛隊は、独自に将来の戦闘機像を描いています。またアメリカやヨーロッパなどでも、F-22やF-35などに続く第6世代戦闘機に関する研究が当然進められていますが、現時点ではそれがどのようなものになるのか、まったく予測が付きません。ただ、使われる技術が逆戻りすることはありませんから、第5世代戦闘機の重要な要素である高いステルス性やセンサー融合、ネットワークへの接続性は、間違いなくより高いレベルのものとなって導入されます。
今日、パイロットに各種の情報をもたらすセンサーは、レーダーと電子光学装置(赤外線、レーザー、TV)が用いられています。これらに代わるものが登場する可能性はきわめて低いのですが、それらの能力向上は当然あり得ます。攻撃用センサーの情報と防御用センサーの情報を、今以上に融合できるようになれば、パイロットの状況認識力はさらに高まり、より効果的な作戦行動と、高い生存性を同時に得られるようにもなるでしょう。こうしたセンサー関連の研究や試験は、X-2では行われず、X-2の作業と並行して別途進められています。
防衛省ではX-2について、約2年間の飛行試験を行って、使われている各種技術について評価し、今後の方向を決めていくことにしています。
(了)
青木謙知(あおき よしとも)
1954年12月、北海道札幌市生まれ。1977年3月、立教大学社会学部卒業。1984年1月、月刊『航空ジャーナル』編集長。1988年6月、フリーの航空・軍事ジャーナリストとなる。航空専門誌などへの寄稿だけでなく新聞、週刊誌、通信社などにも航空・軍事問題に関するコメントを寄せている。著書は『F-4 ファントムⅡの科学』『F-15Jの科学』『F-2の科学』『徹底検証! V-22オスプレイ』『ユーロファイター タイフーンの実力に迫る』『第5世代戦闘機F-35の凄さに迫る!』『自衛隊戦闘機はどれだけ強いのか?』『F-22はなぜ最強といわれるのか』(サイエンス・アイ新書)など多数。日本テレビ客員解説員。
1954年12月、北海道札幌市生まれ。1977年3月、立教大学社会学部卒業。1984年1月、月刊『航空ジャーナル』編集長。1988年6月、フリーの航空・軍事ジャーナリストとなる。航空専門誌などへの寄稿だけでなく新聞、週刊誌、通信社などにも航空・軍事問題に関するコメントを寄せている。著書は『F-4 ファントムⅡの科学』『F-15Jの科学』『F-2の科学』『徹底検証! V-22オスプレイ』『ユーロファイター タイフーンの実力に迫る』『第5世代戦闘機F-35の凄さに迫る!』『自衛隊戦闘機はどれだけ強いのか?』『F-22はなぜ最強といわれるのか』(サイエンス・アイ新書)など多数。日本テレビ客員解説員。