スキルアップ
2017年4月7日
歴史を本当に動かしたのは「お金の流れ」だ
文・関 眞興
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 もちろん歴史の始まりから「お金」が存在したわけではありません。

 物々交換の時代が長く続き、人類の歴史5000年として、ちょうどその真ん中に当たる紀元前6世紀ころに初めて貨幣が鋳造されました。その便利さを知った人類は、それを各地に伝えていきます。各地で貨幣が鋳造されるようになりますが、その伝播の早さは、便利さの証明であるとともに、それだけ商品流通のネットワークが広まっていたことを説明していることにもなります。

 しかしながら、ここでもう一つ考えなければならない問題が出てきます。人間の欲望です。欲望の対象は貨幣そのものにもなりますが、同時に、貨幣との交換で得られる商品=モノも大きな意味を持ってきます。

 世界には、人間の欲望を刺激するさまざまなモノが存在します。普通に手に入るものならともかく、希少価値のある珍しいモノになると欲望はさらに大きなものになります。戦争というのはそれを求める、欲望を満足させる対立ということもできるのです。

「お金」に励まされて人間は歴史を作ってきた!


 1万年ほど前、人類は農耕を始めました。数百万年も続いてきた狩猟採集の生活から、自分自身で食料を生産できるようになったのです。「食料の生産革命」という言葉にふさわしい人類史上の重大変革期になります。

 これを逆説的に見てみますと、農業を始めることによって、直接的に手に入れることのできるモノは穀物になりました。問題は、穀物だけでは人間は生きていけないのです。動物の家畜化も始まりますが、人間の欲望は、穀物と動物だけでない、衣料や道具など多岐多彩なものを求めるようになります。洞窟生活に代わって家を建てるようになり、そこに出てきた指導者(支配者)は神殿・宮殿の類を要求するようになります。

 このようにして複雑な社会が出来あがってくるのですが、何と言ってもモノの多様性が問題になります。この多様なモノに如何に対応するかが問題になります。

 そして、人間の英知は、「普遍的な商品(モノ)」とも言える「お金」を生み出したのです。そしてその「お金」の材料として、金や銀といった貴金属が使われるようになりますが、その材質そのものが普遍的、つまり変質しないところに注目されたからでしょう。

 ここで再び人間の欲望が出てきます。人間の欲望を満たすモノは様々ですが、普遍的なモノとしての「お金」は、何にでも交換できるという意味で特別な魅力を持って出てきます。それをたくさん持つことが喜び、さらには目的になってきてしまうのです。こうなると、人間は「お金」をたくさん集めることが目的になります。もはや「お金」に支配されているとしかいいようがありません。

 とはいうものの、お金が動いている間は、経済活動は健全であったといえるかもしれません。どんな時代でも、人間取り巻く環境は過酷なものでしたが、そのような中でも「お金」は、人間に希望を与えてくれ続けてきたのかもしれません。

 希望が具体化されたものが「お金」と考えると、人間とはこのようなものかと納得させられます。ほどほどの量で感謝する人から、巨大な富を得ても満足できない人、なかなか希望の実現ができない人、そのような人々が入り混じって、歴史を作り上げてきたのではないでしょうか。

(了)


「お金」で読み解く世界史
関 眞興 著



関 眞興(せき しんこう)
1944年、三重県生まれ。歴史研究家。東京大学文学部卒業後、駿台予備校世界史講師を経て、著述家となる。『学習漫画 世界の歴史』『学習漫画 中国の歴史』(以上、集英社)の構成を手がけたほか、著書に『読むだけ世界史 古代~近世』『読むだけ世界史近現代』(以上、学習研究社)、『総図解 よくわかる世界の紛争・内乱』『さかのぼり世界史』(以上、新人物往来社)、『30の戦いから読む世界史』(上下、以上、日経ビジネス人文庫)、『なぜ、地形と地理がわかると世界史がこんなに面白くなるのか』(洋泉社歴史新書)などがある。
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