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2017年5月10日
元・陸将補が明かす『戦術の本質』──上陸作戦は「最初の24時間」で決まる
文・木元 寛明
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現代の戦場で、軍隊の指揮官はどのように作戦を立案し、どう部隊を指揮・運用し、敵を撃破して、勝利を収めるのでしょうか? 「戦いには不変の原則がある」と断言するのは、陸上自衛隊で第71戦車連隊長、陸将補を務め、『戦術の本質』(サイエンス・アイ新書)の著者でもある木元寛明さんです。ここでは、一つの例として「上陸作戦の本質」(攻撃側)、「対上陸作戦の本質」(防御側)を伺いました。想像したくもありませんが、北朝鮮で有事が起きた際、上陸作戦がどのように進むのか考える一助ともなるでしょう。


上陸作戦はどのように実施されるのか?


『戦術の本質』(木元 寛明 著)

 『史上最大の作戦』(コーネリアス・ライアン/著、広瀬順弘/訳、早川書房、1995年)の冒頭に、次のようなエピソードが載っています。原作の題名は『The Longest Day』です。映画でも有名になった連合軍の「ノルマンディー上陸作戦」を扱った作品です。

「まちがいなく、ラング、上陸作戦の最初の24時間がすべてを決するだろう...ドイツの運命はその結果如何(いかん)によって決まる...連合軍にとっても、われわれにとっても、この日こそはもっとも長い一日となるだろう」
――陸軍元帥エルヴィン・ロンメルの副官への言葉(1944年4月22日)

 ここに書かれている「上陸作戦の最初の24時間」とは何を意味しているのでしょうか? 戦術の本質からこの意味を探ると、

『上陸作戦の成否を握る鍵が上陸作戦の最初の24時間にある』

ということが理解できます。

 上陸作戦は、一般的に次のような手順で行います。

(1)最初に、上陸予定地に対して大規模な艦砲射撃、航空攻撃、空挺降下などを行う。

(2)上陸直前に、特殊部隊が、上陸予定海岸に設置された機雷、地雷、鹿砦(ろくさい)などの上陸を妨害する障害物を除去する。

(3)先遣部隊の第1波が強行上陸して、上陸海岸への敵の直接照準火力(戦車砲、機関銃、小銃など)を制圧して排除する。

(4)先遣部隊の後続が上陸してさらに前進し、海岸付近への間接照準火力(各種火砲、ロケット砲、迫撃砲など)をできるだけ多く排除する。

(5)先遣部隊の掩護のもとに、本隊の一部が上陸して内陸に侵攻し、橋頭堡を確保する。橋頭堡には主力部隊(兵站も含めた大部隊)を安全に上陸させるだけの地積(面積)が必要。このためには、内陸部に相当深く進出しなければならない。この際、最初に降下した空挺部隊と提携(手を結ぶこと)する。

(6)橋頭堡が確保できた段階で、上陸部隊の主力が続々と上陸し、以降の作戦に必要な地域を占領する。

 ロンメルが「上陸作戦の最初の24時間」と指摘したのは、上記(4)~(5)の橋頭堡をめぐる攻防の時間帯をいっているのです。

 防御側の勝利とは、「上陸作戦の最初の24時間」に敵上陸部隊の橋頭堡確保を拒否し、主力部隊が上陸する前に、(1)の空挺部隊、(4)~(5)の上陸部隊を撃破することです。

 では、圧倒的優勢な艦隊と航空機の支援の下に上陸してくる敵部隊に対して、橋頭堡を設定させない方策はあり得るのでしょうか?



戦術の本質
戦いには不変の原理・原則がある
木元 寛明 著



木元 寛明(きもと ひろあき)
1945年、広島県生まれ。1968年、防衛大学校(12期)卒業後、陸上自衛隊入隊。以降、第2戦車大隊長、第71戦車連隊長、富士学校機甲科部副部長、幹部学校主任研究開発官などを歴任して2000年に退官(陸将補)。退官後はセコム株式会社研修部で勤務。2008年以降は軍事史研究に専念。主な著書は『戦車の戦う技術』(サイエンス・アイ新書)、『自衛官が教える「戦国・幕末合戦」の正しい見方』(双葉社)、『戦術学入門』『指揮官の顔』『ある防衛大学校生の青春』『戦車隊長』『陸自教範「野外令」が教える戦場の方程式』『本当の戦車の戦い方』(光人社)。
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