スキルアップ
2017年10月4日
東大の人気授業「考える力の教室」で学べる「問う力」とは?
『東大教養学部「考える力」の教室』より
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「問う力」ですべてが決まる


 普段、新しい考えやアイデアを生み出す過程で、あなたは「何を調べようか?」「どうやって調べようか?」という「問い」を深く掘り下げてきたでしょうか? あまり何も考えずに、いつものやり方、同じやり方で何気なく決めていませんか?

 「問い」の内容によって、調べる内容や対象も異なります。凡庸な「問い」からは、凡庸な発見しか生まれません。ここは非常に大切な部分です。

 また、私たちは「必要なものを相手に直接聞いてしまう」という愚を犯しがちです。

 ところが、相手に欲しいものを直接聞いたところで、つまらない答えしか返ってきません。なぜなら、本当によいものは、聞かれた本人も気づいていない深層心理の部分に眠っているからです。

 ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン博士は、無意識の重要性についてこんな言葉を残しています。

「人間は、自分自身の意識の5%しか認識していない。そして、残る95%のほうが我々の行動に関係している」

 相手にニーズを直接聞いても、聞かれた本人は答えを持っていません。
 逆にいえば、言語化できない無意識領域に迫る調査は、素晴らしい情報収集の機会となります。私の経験では、新しいことを考える際に、意識領域のすぐ下にある無意識領域は「宝の山」です。

 だからこそ、大事なのは、インプット時の「問い」です。

 相手の意識領域を引き出すありきたりの「問い」ではなく、今まで言語化できなかった無意識領域を引き出す新しい「問い」を立てたいのです。

「知っているつもりだけど実は知らないことはないか?」
「あたりまえのように使っているけれど、他の人たちにとってはどうなのか?」
「いつも同じ方法で調べてわかった気になっていないか?」

 今までの自分たちのやり方を疑い、調査方法を"発明"するつもりで臨みたいのです。

問いは、あなたの知らない世界に導いてくれる


 物事考える最初の段階で「問い」が非常に重要なのにはもう一つ理由があります。
 何か新しいことを調べる際には常に次の3つの領域を意識する必要があります。

既知の知:既に知っている領域や事柄
既知の未知:知らないことを知っている領域や事柄
未知の未知:知らないことすら知らない領域や事柄

 既に知っている領域は、基本的には調べなくても大丈夫な領域ですが、もしかするとあなたが知っている既存の知識が間違っている可能性があるかもしれません。もし既存の常識を覆すような発見がみつかればもちろんそれは大きな発見です。

 知らないことを知っている領域や事柄はまずは調べたくなる領域です。知らないことを知っているので調べるのが比較的容易です。

 さて、最後の知らないことすら知らない領域が一番やっかいです。何しろ知らないことを知らないので、そもそも何を調べたらいいかも思いつきません。でも、この領域こそ新しい発見が潜んでいる可能性が高いのです。まだ見ぬ未知の領域だからこそ情報の宝の山の可能性が高いのですが、どう調べていいかがわかりません。

 そこで威力を発揮するのが「問い」なのです。

 問いは答えがすぐにみつかる必要がないので、投げかけだけですみます。
 だからこそ、何かモノを考える時には、最初にちょっと立ち止まって、その領域のことだけを考えていいのか。自分の知らない領域はないのか、を考えてみることが重要なのです。



東大教養学部「考える力」の教室
宮澤 正憲 著



宮澤正憲(みやざわ まさのり)
東京大学 教養学部教養教育高度化機構 特任教授
(株)博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局長
東京大学文学部心理学科卒業。(株)博報堂に入社後、多様な業種の企画立案業務に従事。
2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、ブランド及びイノベーションの企画・コンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立上げ、経営戦略、新規事業開発、商品開発、空間開発、組織人材開発、地域活性、社会課題解決など多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。同時に東京大学教養学部に籍を置き、発想力とチーム力を鍛える授業「ブランドデザインスタジオ」や大学生を対象にした発想のための教育コンテストBranCo!を企画・運営するなど高等教育とビジネスの融合をテーマに様々な教育活動を推進している。成蹊大学非常勤講師。イノベーション支援サービスを提供する(株)SEEDATA非常勤取締役。 主な著書に『「応援したくなる企業・組織」の時代』(アスキー・メディアワークス)、『ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践』(共著、ダイヤモンド社)、『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』(編著、アスキー・メディアワークス)、など多数。
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