スキルアップ
2018年2月1日
続ける力(グリット)は「サプライズ法」で鍛えられる!
『続ける脳』より
村上春樹さんは作品を最後まで書いてから、いきなり人に渡す」というエピソードを先日紹介しました(http://online.sbcr.jp/2018/01/004276.html)。脳科学者の茂木健一郎さんは、どんな小さなことでも、それを完遂して、人を驚かすことが大事だといいます。それは、なぜなのか? すべてにエビデンスのある習慣術の決定版『続ける脳』(茂木健一郎・著)から、今回は2つのエピソードをピックアップしましょう。
サプライズ法で前頭葉のはたらきを鍛える
どんな夢でも、誰にもいわずに最後までつくり上げる。
満足を得るのは、完成したときだけ。
それが大事だという話をしてきました。
プロジェクトを完成させるには、脳の司令塔である前頭前野が最後まで続ける命令を出す必要があります。最後までやり抜かないと満足感が得られないのですから、司令塔である前頭前野にとって、これ以上の負荷はありません。だからこそ、「完成できれば、最高の報酬が待っている」と前頭前野に教えなければなりません。
たとえば、親や友人の誕生日にサプライズを仕込む。喜ぶ顔が見られたら、「努力は報われる。誰かを幸せにできる」と前頭前野が学び、苦痛にも耐えられるようになります。
『料理の鉄人』などの人気番組を担当し、映画『おくりびと』の脚本や『くまモン』のプロデュースでも有名な放送作家、小山薫堂さんの事務所では、毎年、誕生日のサプライズを仕掛ける習慣があるそうです。
サプライズは事務所の決まりごとなのですから、相手にもわかっています。その上で、驚かせるのですから、ハードルが高い訓練法といえるでしょう。みな必死になって考えるのだそうです。
サプライズがよい作品づくりにつながると、小山さんは経験的につかんでいるのだと思います。「誰かを思ってつくる」こそが、人に喜ばれる仕事の基本なのです。
イースター・エッグを仕込め!
イースター・エッグをご存じでしょうか。
お菓子が詰め込まれた卵形の容器で、イースター(キリスト教の復活祭)の前に大人がさまざまな場所に隠します。そしてイースター当日の朝に、子どもたちが必死に探しまわります。
「この日まで内緒!」と隠されていた物が明らかになって、大きな喜びを与えられる、そんな習慣です。「特定の日時になると何かが起こる、その日までは秘密」
最近は、IT企業の仕事のほとんどが、イースター・エッグ形式で進められているといっていいでしょう。
これまでは、「こんなすごいことが起こります」と、最初に公言するのがほとんどでしたが、今のIT業界は、「突如、発表する」のが常識です。事前の告知をせず、最高の完成品を見せてくるのです。
2016年末に、『Master』という謎の囲碁ソフトがネット上に現れて、井山裕太六冠や、中の世界チャンピオンなどを次々撃破していく事件がありました。突然何の予告もなく現れ、「ナンダコレハ!」と囲碁業界に衝撃が走りました。ボストン・ダイナミクスというロボットをつくる会社も、いきなり、それまで考えられなかったロボットの映像を、YouTube に投稿してしまいます。すさまじい研究なのに、彼らは論文を一切書きません。つまり、どういう仕組みでロボットができあがっているのか、外部の人にはわからない。完成品がすばらしいので、問答無用で納得させられてしまうのです。
プロジェクトを秘密にする効能は、誰かに知らせたくて、必死に完成させることです。
これはIT業界だけの話ではありません。話題になった日本のアニメ映画、『君の名は。』、『この世界の片隅に』も同じです。
「私たちは、こんな映画をつくっています!」とか「こんな手法を使っていて、すごいんだ!」とか、公開前に制作者が情報をもらすことをしていません。事前情報がないからこそ観客は「すごい映画が現れた」と素直に作品に感嘆できるのです。作品を公開したときに、作品単体で魅力を伝えられるかどうかが大事なのです。
手近なところで、イースター・エッグを仕込むのは、続ける力を鍛える練習になります。 夢を語る代わりに、どんなに小さくてもプロジェクトを完遂し、人を驚かせてみる。それがどんなに楽しいか、経験として積んでいくことが大事です。
(了)
茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年10月20日東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。専門は脳科学、認知科学。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年「脳と仮想」で、第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、「今、ここからすべての場所へ」で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『生きて死ぬ私』(徳間書店)、『意識とはなにか──<私>を生成する脳』(ちくま新書)、『脳と創造性』(PHP研究所)、『ひらめき脳』(新潮社)、『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」の つくり方』(学研プラス)、『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)など多数。
脳科学者
1962年10月20日東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。専門は脳科学、認知科学。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年「脳と仮想」で、第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、「今、ここからすべての場所へ」で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『生きて死ぬ私』(徳間書店)、『意識とはなにか──<私>を生成する脳』(ちくま新書)、『脳と創造性』(PHP研究所)、『ひらめき脳』(新潮社)、『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」の つくり方』(学研プラス)、『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)など多数。