カルチャー
2014年8月14日
「エボラ」だけではない恐怖の出血熱ウイルス
『殺人ウイルスの謎に迫る!』より
西アフリカで感染が拡大している「エボラ出血熱」。厚生労働省によると、エボラウイルスに感染すると、2~21日(通常は7~10日)の潜伏期のあと、突然の発熱や頭痛などを経て、嘔吐や出血などの症状が現れるとのこと。致死率が非常に高く、8月11日時点の西アフリカでの死者は1000人を超える規模に達しています(WHO発表)。このように非常に恐ろしいエボラ出血熱ですが、世界中にはこのほかにも致死率の高い出血熱ウイルスが多数存在します。『殺人ウイルスの謎に迫る!』(サイエンス・アイ新書)から、その一部を紹介しましょう。
マールブルグ出血熱 ~西ドイツ(当時)で起こった不気味な事件
ポリオのワクチンには、アフリカミドリザルの腎臓の細胞を使用しています。不活化ワクチンには培養細胞を使うようですが、生ワクチンをつくるには腎臓から細胞を取りださなければなりません。ところが、この作業をしていた従業員が突然発熱し、死亡する事態が西ドイツ(当時)の町、マールブルグで起こりました。1967年のことです。
当時、アフリカミドリザルはアフリカから直接輸入されていましたが、この腎臓を取る作業をしていた人が不思議な病気にかかり死亡したのです。それでこの病気を「マールブルグ出血熱」(またはマールブルグ病)と名づけました。
その後、いろいろと調査が進んだ結果、マールブルグ出血熱はアフリカでよく見られる病気で、致死率が50%以上という大変恐ろしい病気であることがわかりました(写真1)。2005年には、アンゴラで132人がマールブルグ出血熱で死亡しています。発熱と身体からの出血を繰り返すのがマールブルグ出血熱の症状です。
これまではネズミが媒介していると考えられていましたが、いまではアフリカにいる野生のコウモリの一種が、この致死的なウイルスを媒介していると考えられています。
現在は、ポリオワクチンの製造に使われるアフリカミドリザルの輸出入が禁止されているため、自家繁殖されたサルを使用しています。
エボラ出血熱 ~体中から出血して死に至る
マールブルグ出血熱と同じくらい恐ろしい病気が「エボラ出血熱」です。1976年にアフリカのエボラ川の周辺で最初に報告された病気で、体中から出血します。やはりウイルスが原因で血管が破裂して出血します。
スーダン株は致死率53%、ザイール株にいたっては致死率88%にもなります。2007年にコンゴ共和国で、170人がエボラ出血熱で死亡しています。この血液が付着すると、その人に同じ病気がうつることもあります。
最近になって、エボラウイルスの自然宿主はオオコウモリであることがわかりました。マールブルグ出血熱もエボラ出血熱も、これらの患者を看護するには、隔離していちばん高い防御方法で対応しなければなりません。これらの病気が見つかったころは、医師、看護師、身内の人々に続々とうつって同じ病気になる悲劇が起こりました。現在、これらのウイルスを研究する機関は、最高の隔離設備を備える必要があります。
マールブルグウイルスとエボラウイルスは、同じフィロウイルス科に属しています。「フィロ」というのは、ウイルスを電子顕微鏡で見ると、フィラメント(繊維)のように見えるからです(写真2)。
日本でもアフリカ帰りの人でエボラ出血熱と診断された方が見つかりましたが、大事に至ることなく無事退院されました。この病気は、人から人に感染を繰り返すにつれて病原性が弱くなるようです。もちろん、それでも大変恐ろしい病気であることに変わりありません。
ラッサ熱 ~西アフリカでは毎年5,000人が死亡
1976年に、西アフリカのナイジェリアにあるラッサ村で、やはり原因不明の出血熱が発生しました。ラッサウイルスによるもので、このとき初めて「ラッサ熱」としてヒト社会に登場しました。高熱、下痢、全身の出血などの症状が出て、致死率は22~44%と高く、患者を収容した病院では院内感染が起こり大騒ぎになりました。
ラッサ熱は、ギニア、リベリア、シエラレオネ、およびナイジェリアの一部に土着であることが知られていますが、恐らく西アフリカのほかの国にも存在するものと思われます。
人での感染では、約80%が不顕性感染(症状が現れない感染)となります。症状が表れると重症の病気になり、ウイルスは肝臓、脾臓、腎臓などの複数の臓器にダメージを与えます。潜伏期は6~21日間くらいです。
重症例では、顔面がはれ、胸腔に液体が貯まり、口や鼻や膣および消化管から出血して、血圧が低下します。ショック、けいれん、振戦(ふるえの一種)、見当識障害(周囲の状況を理解できない状態)、昏睡などが末期に生じます。
写真3 ラッサウイルスの電子顕微鏡写真。西アフリカでは毎年5,000人以上が死亡する、ラッサ熱の原因となるウイルス
(写真提供:CDC/C. S. Goldsmith, P. Rollin, M. Bowen)
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ラッサ熱はのちに、マストミスと呼ばれるネズミが自然宿主であること、ラッサウイルスはアレナウイルス科に属するRNAウイルスであることなどがわかりました。「アレナ」とはラテン語で「砂」を意味しています。電子顕微鏡で見ると、ウイルス粒子が砂をまいたように見えるのでアレナウイルスと呼ばれています。これはウイルスが宿主細胞の成分であるリボソームを取り込んでいるからです(写真3)。
【著者】畑中正一(はたなか まさかず)
1933年、大阪府生まれ。1958年、京都大学医学部卒業。1963年、京都大学大学院医学系修了(医学博士)。京都大学ウイルス研究所所長、塩野義製薬医科学研究所所長、同医薬研究開発本部長、塩野義製薬代表取締役副社長などを歴任。京都大学名誉教授。おもな著書に『殺人ウイルスの謎に迫る!』(サイエンス・アイ新書)、『ウイルスは生物をどう変えたか』(講談社)、『キラーウイルスの逆襲』(日経BP社)、『殺人ウイルスへの挑戦』(集英社)、『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』(集英社、共著)などがある。
1933年、大阪府生まれ。1958年、京都大学医学部卒業。1963年、京都大学大学院医学系修了(医学博士)。京都大学ウイルス研究所所長、塩野義製薬医科学研究所所長、同医薬研究開発本部長、塩野義製薬代表取締役副社長などを歴任。京都大学名誉教授。おもな著書に『殺人ウイルスの謎に迫る!』(サイエンス・アイ新書)、『ウイルスは生物をどう変えたか』(講談社)、『キラーウイルスの逆襲』(日経BP社)、『殺人ウイルスへの挑戦』(集英社)、『iPS細胞ができた!―ひろがる人類の夢』(集英社、共著)などがある。