ビジネス
2014年12月9日
成功するチームづくりのキモは「えこひいき」
[連載] 開成高校野球部の「弱くても勝つ」方法【3】
文・山岡 淳一郎
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 メンバーのモチベーションが上がらない、というのはリーダーの永遠の悩みではある。

 そんなとき、自分のモチベーションはどうなっているだろうか。

 開成高校野球部の選手達は、みな真面目に、熱心に練習に取り組む。

 しかし、ここぞというときに、力が出せない、積極的になれない。

「生徒に、君ら強制労働させられているみたいだね、と言ったことがあります。勝っても負けても、同じようにつらそうな顔をしている。これでは勝つのは難しい。いまのテーマはそこです」(青木談)

 そんな選手達に、どのような指導をしているのか、見てみよう。

チームづくりは、「えこひいき」から


 青木先生は、チームづくりは「えこひいき」から始めると言う。

 高校野球には教育的観点から、平等が原則といったイメージがある。選手たちは、はたして「えこひいき」を納得しているのだろうか。

「われわれが目指しているのは、強豪校と互角に渡り合って撃破することです。帝京や関東一高などの強豪校のエース投手と対戦するとしましょう。みんなで厳密に不公平なく練習して、ちょっとずつうまくなっても、誰一人勝負できずに終わります。だったら、一人でも二人でもえこひいきして、いいバッターが育ったら、もしかしたら相手チームに太刀打ちできるかもしれない。全員が中途半端にうまくなって誰一人通用しないのと、一人でも二人でも通用するバッターを育てるのと、どっちがいいんだってことです。不満があっても、その不満を引き受けるのは、こっちの仕事です」(青木談)

 誤解がないようにつけ加えると、「えこひいき」するのは資質にすぐれ、チームのリーダー役を担えると見込んだ選手だ。

 そして、闇雲にひいきするのではなく、最低ラインの平等性は担保している。

 たとえば、グループ別でバッティング練習をしていて、人数の少ない組があれば、ひいきしている選手を呼んで、もう1回そこに入れて打たせるとか、その程度のえこひいきである。

 今までに「不公平だ」との不満を寄せられたことは一度もないようだ。

 チームの目的が「勝つこと」であれば、そのための布陣を組む。常に常識にとらわれずに、「目標に対して大事なこと」にめがけてすべてを動かす。

リーダーなら、自分が一番のモチベーションを持つ──「代打おれ!」と先生が叫んだ理由


 ある練習試合で、青木先生は

「次、代打に出たいヤツはいるか」

 とベンチに向かって問いかけた。

 沈黙がベンチを襲う。控えの選手は互いの顔を見合ってモゾモゾしている。自信がないのか、「行きます!」と手が上がらないのだ。

 業を煮やした青木先生は叫んだ。

「よしっ、代打、おれ!」

 ピンチヒッターはおれだと言い残して、ヘルメットをかぶる。

 ようやく選手達が慌てて「先生、それはダメです」とひきとめた。

「立場が逆ですね。ダメですって止めるくらいなら、最初に手を挙げろって。そういう熱の入り方だから、勝てないんだと、怒るんです」(青木談)

 ここぞ、というところで本気を促すには、パフォーマンスも必要だ。

 勝つために、チームのやる気を出すために、なんだってやる。

「常に自分が一番モチベーションが高い状態でいたいと思うんです。監督がばか騒ぎをしているのを見て、情けないからなんとかするぞ、おれの力で勝ってやるぞ、という選手が一人でも二人でも出れば、OKなんです」(青木談)

 タテマエだらけの世の中で、人を動かすのは「本音」である。本音で語れるリーダーは、いつも魅力的だ。

(第3回・了)
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開成高校野球部の「弱くても勝つ」方法
限られた条件で最大の効果を出す非常識な考え方
山岡 淳一郎 著



【著者】山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)
1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家、東京富士大学客員教授。経済、政治、医療、スポーツなど分野を超えて旺盛に執筆中。著書『気骨 経営者土光敏夫の闘い』(平凡社)、『田中角栄の資源戦争』(草思社文庫)、『深海8000メートルに挑んだ町工場 江戸っ子一号プロジェクト』(かんき出版)、『原発と権力』(ちくま新書)ほか多数。

【取材協力】青木秀憲(あおき・ひでのり)
1971年群馬県出身。群馬県立太田高等学校から東京大学教育学部体育学健康教育学科、同大学院教育学研究科体育科学専攻の修士、博士課程を経て、1999年より開成中学高等学校保健体育科教諭、開成高校硬式野球部監督。1995年より東京六大学野球連盟審判員。