スキルアップ
2015年1月7日
購入した宝くじ、いくらなら売る?──一度手にすると商品の価値が上がる、不思議な「保有効果」
[連載] マンガでわかる 行動経済学【2】
文・ポーポー・ポロダクション
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「行動経済学」と聞くと、難解な経済の話だと思われるかもしれません。しかし実際は、心理学の影響を強く受けた、経済に関する人の心の動きをわかりやすく教えてくれる学問です。では、行動経済学を活用するとどんなことがわかるのか? さらになにに活用できるのか? 『マンガでわかる 行動経済学』の著者、ポーポー・ポロダクションが解説します。


自分のもっているものを過大評価してしまう心理


『マンガでわかる 行動経済学』より

 人は理論ではなかなか説明できない不思議な経済行動をとります。その1つは「自分がもっているものは価値がある」と思うという傾向です。

 アメリカの大学生でこんな実験が行われました。学生を2つのグループに分け、片方のグループに大学のロゴ入りカップをプレゼントしました。そこでカップを手に入れた人は何ドルならそのカップを手放してもいいか? もっていない人はいくらならカップを手に入れたいと考えるか? という質問をしたのです。するとカップ所持者は平均5.25ドル以下では売ろうとせず、もたない人たちは平均2.75ドル以上では買おうとしなかったのです。

 標準的な経済学では「売りたい額」と「払いたい額」に差はないと考えますが、実際には2倍近くの差がでました。これが実際の経済活動のおもしろいところです。学生にとってロゴが入ったマグカップなど、たいした価値と思わないでしょう。それも大学からプレゼントされた雑貨です。しかし、一度手にすると所有したものの価値があがり、簡単に人には譲れなくなってしまうのです。これを「保有効果」といいます。

 行動経済学の第一人者であるデューク大学のダン・アリエリー教授は、さらに突っ込んでおもしろい調査をしました。バスケットボール全米選手権のチケットはプレミアムチケットで、抽選によりひと握りの人しか手に入らないといいます。ダン教授は、このチケットを手に入れた学生はどれほど高くチケットの価値を見積もるのか? という調査をするため、手に入れた学生に「最低、いくらならチケットを譲ってもいいか?」、手に入らなかった学生に「いくらなら買ってもいいか?」と100人以上に電話をかけて聞きました。するとチケットがはずれた学生は1枚約170ドルを払ってもいいという意志を見せたそうです。その金額の根拠は、スポーツバーに行って飲食をする価格と比較して調整、算出したものでした。一方、チケットをもつ学生は1枚に約2400ドルを要求してきたといいます。その根拠は、この試合は生涯忘れられない思い出になるだろうと高額に設定してきたようです。実にその差は14倍にもなりました。

 バスケットボールの試合のようなものは特に、一度保有したものに強い価値を見いだしてしまい、価値が急上昇してしまいます。そしてチケットと売るということは、とてつもない悲しみに思えてしまい、自分への慰謝料として法外な値段設定をしてしまうようです。

購入したジャンボ宝くじ、あなたならいくらだったら譲ってもいいですか?


『マンガでわかる 行動経済学』より

 保有すると価値があると思う効果はわかるけど、バスケットボールのチケットは嗜好が強く影響をしていて、考える価値には大きな差があるんじゃないの?

 そう思う読者もいるかもしれません。

 そこで、もっと直接的にお金に関わるものだったら、どの程度差がでるか実験をしてみることにしました。

「300円のジャンボ宝くじを1枚だけ買い、抽選日まで待っていようと思いましたが、販売終了後に他人がそれを譲ってほしいといいました。人間関係などを考えずに、単純にいくらだったら売ってもいいですか?」

 この質問を659人(男性465人、女性194人/20代~70代)にして回答してもらいました。

 すると手放す金額の平均は1,180円となりました。価格の内訳としては、期待する当選金額が500~1000円(購入価格を含む)、それに譲ったくじが当たったときの気持ちを納得させる金額が少し加算されるようです(チケットと同じ慰謝料的発想です)。300円で購入したものですから、実際の価格と手放してもいい価格の間には3.9倍の開きもあります。

 そしてこの調査で1つおもしろいものがわかりました。女性の平均は830円、男性の平均は1,326円と男女に大きな差が見られたのです。この結果だけでは結論づけられませんが、保有効果には男女差があり、男性のほうが強い保有効果をもっていそうなのです。

 ジャンボ宝くじは経費や税金を引かれ、1枚あたりの当選期待値は約145円しかありません。しかし宝くじは大きな金額を得る夢を見て買う人がほとんどです。実際の価値と保有価値との間には大きな差があることがわかります。

 保有効果は誰でももっているものですが、その効果に差があるのもまたおもしろいところです。

(第2回・了)





マンガでわかる行動経済学
いつも同じ店で食事をしてしまうのは? なぜギャンブラーは自信満々なのか?
ポーポー・ポロダクション 著



【著者】ポーポー・ポロダクション
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用した商品開発や企業のコンサルタントなども行っている。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『マンガでわかるゲーム理論』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『今日から使える!「器が小さい人」から抜け出す心理学』『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『「色彩と心理」のおもしろ雑学』(大和書房)などがある。
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