スキルアップ
2014年12月24日
なぜ、いつも同じ店で食事をするのか?──知らないと損をする「行動経済学」ってなんだ?
[連載] マンガでわかる 行動経済学【1】
文・ポーポー・ポロダクション
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「行動経済学」と聞くと、難解な経済の話だと思われるかもしれません。しかし実際は、心理学の影響を強く受けた、経済に関する人の心の動きをわかりやすく教えてくれる学問です。では、行動経済学を活用するとどんなことがわかるのか? さらになにに活用できるのか? 『マンガでわかる 行動経済学』の著者、ポーポー・ポロダクションが解説します。


行動経済学とは?


『マンガでわかる 行動経済学』より

 「経済学」というとなにか難しい学問で、金融関係の人や大学で勉強するもので日常の生活と無縁の存在だと思われている人も多いと思います。

 しかし、そんなことはありません。経済学は日常に深く関係したものばかりです。

 経済学は社会全体の経済活動を研究します。「投資」「資金調達」「販売活動」など難しそうに聞こえるものばかりではなく、個人の「貯金」「買い物」、もっと身近な「結婚」「恋愛」などにも広がります。

 標準的な経済学は、さまざまな経済現象を合理的な人間行動の結果としてとらえてきました。間違った選択はせず効率的に合理的な判断をする人が、間違いのない選択をすると考えられています。

 でも実際の人の行動はどうでしょう?

 確かに人の基本的な判断基準は、「これは得か?」「こっちを選ぶと損をするぞ」といった利益にもとづく合理的な判断です。ただしいつでも合理的に判断し、間違いなく選択をするとはかぎりません。予定していなかったのについついその場の気分で「衝動買い」をしてしまったり、中身を確かめることなく外見の雰囲気で「ジャケ買い」をしてしまったりするものです。

 行動経済学ではこうした人がついついしてしまう「心理」「行動パターン」を実験などから導きだし、その傾向を知ろうと研究されています。行動経済学が重点を置いているのは、経済活動に関するリアル人間の認知傾向や行動特徴を明らかにすることです。

人は「得したい」より「損をしたくない」と考える


『マンガでわかる 行動経済学』より

 みなさんの日頃の行動について振り返ってみてください。ランチや仕事帰りの居酒屋、友人とお茶をするカフェなど、ついつい同じ店に行ってしまわないですか?

 世の中にはたくさんの店があるというのに、なんでそんな行動をとってしまうのでしょうか? これはどんな心の動きからきているのでしょう?

 味も料理の提供時間も、いつも行く店は悪くない。
 しかしもし違う店に行って料理がおいしくなかったらどうしょう。
 でてくるのが遅かったら仕事に戻れない。
 それはとても困るから、ちょっと冒険してみる気持ちになれない。
 やっぱりいつもの店でいいか。

 人は自分の経験をもとに「失敗したくない」という気持ちを強くもっている生き物です。「得をしたい」という気持ちより実は、「損をしたくない」という気持ちが強くあるのです。そのため人は新しいお店を開拓せず、無難な選択をして同じ店に行ってしまいます。

 多くの人は得をしたときに得るよろこびの感情よりも、損をしたときに感じる感情のほうがより大きいといわれています。これを経済行動学では「損失回避の傾向」と呼んでいます。

『マンガでわかる 行動経済学』より

 もう1つこんな状況を考えてみてください。

 あなたが勤めている会社の業績が好調で社長が気前よく来月から社員の給料を一律1万円上げてくれることになりました。仕事の評価と関係なく給料が上がるのですから、とても得した気分になるでしょう。

 では逆に、会社の都合で来月の給料から1万円下がったとしたらどうでしょう?
 1万円上がったときと同じだけ悲しい気持ちになったでしょうか?

 多くの人は、1万円上がったときよりも1万円下がったときのほうが、はるかに嫌な気持ちになります。同じ1万円なのになぜなのでしょう?

 それは、人は得をしたいと思うよりも、損をしたくないと考えるからなのです。実際、損をしてしまうと得をしたときよりも大きなダメージを受けてしまいます。

 標準的な経済学では同じ1万円ですから、上がったときのよろこびも下がったときの悲しみも同じととらえます。しかし実際は、感情の動き方には差があります。

 行動経済学ではこうした理論の経済学から離れて、実験や実社会での経験を通して、人間は感情でものを判断するという前提のもとで、さまざまな感情傾向や行動傾向を知ろうとしています。

(第1回・了)





マンガでわかる行動経済学
いつも同じ店で食事をしてしまうのは? なぜギャンブラーは自信満々なのか?
ポーポー・ポロダクション 著



【著者】ポーポー・ポロダクション
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画や各種制作物を手がけている。色彩心理と認知心理を専門とし、心理学を活用した商品開発や企業のコンサルタントなども行っている。著書に『マンガでわかる色のおもしろ心理学』『マンガでわかる色のおもしろ心理学2』『マンガでわかる心理学』『マンガでわかる人間関係の心理学』『マンガでわかる恋愛心理学』『マンガでわかるゲーム理論』『デザインを科学する』(サイエンス・アイ新書)、『今日から使える!「器が小さい人」から抜け出す心理学』『人間関係に活かす! 使うための心理学』『自分を磨くための心理学』(PHP研究所)、『「色彩と心理」のおもしろ雑学』(大和書房)などがある。
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