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2015年10月7日
世紀の発見!「ニュートリノ」に質量があると何がスゴイのか
文・荒舩良孝、監修・大栗博司
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ニュートリノの変化が重さを示すカギ


「重さがある=光速ではない」ことがポイント

 ここで問題になってくるのは、どうしてニュートリノ振動があることで、ニュートリノに重さがあることがわかるのかということである。ニュートリノに重さがないことを証明するには、ニュートリノが光速で動くことを証明すればよかった。

 ここでアインシュタインの相対性理論を思いだしてみよう。相対性理論によると、この宇宙でいちばん速いのは光で、光より速いものは存在しない。これが光速不変の法則だ。

 相対性理論のなかでは、光速に近くなればなるほど、その速さで飛んでいるものはほかのものよりも時間の進み方がゆっくりになっていく。そして、完全に光速になると時間を感じなくなる。ニュートリノが時間を感じないのであれば、ニュートリノ振動が起こることがおかしいということになる。たとえば、人が時間を感じるのは、お腹がへったり、体が大きくなったり、老化をしたりと、なにかしら変化があるからだ。自分自身やその周りでなにも変化が起きなければ時間の経過を知る術はない。

 それはニュートリノも同じで、ニュートリノが時間を感じていなければミューニュートリノからタウニュートリノに変化することはないのだ。それでニュートリノの種類が変化するニュートリノ振動が観測されたことは、ニュートリノが光速よりも少し遅い速度で動いている証拠となる。

 そしてニュートリノが光速で動いていないということは、ほんの少しでも重さをもっているという結論になるのだ。スーパーカミオカンデでの発見後、人工的につくったニュートリノを使った実験でもニュートリノが重さをもっていることが99.99%以上の確率で 示された。30年間破られることのなかった標準理論は、このようにして倒されていった。

(了)


マンガでわかる超ひも理論
なぜ究極の理論とよばれるのか
荒舩良孝 著  大栗博司 監修



著者:荒舩良孝
1973年生まれ。科学ライター・保育士。東京理科大学在学中より科学ライター活動を始める。ニホンオオカミから宇宙論まで、幅広い分野で取材・執筆活動を行っている。おもな著書に、サイエンス・アイ新書『宇宙の新常識100』がある。

監修:大栗博司
1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て、カリフォルニア工科大学 理論物理学研究所所長およびフレッド・カブリ冠教授、東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。おもな著書に、『大栗先生の超弦理論入門』(講談社ブルーバックス)、『重力とは何か』『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、『素粒子論のランドスケープ』(数学書房)などがある。
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