スキルアップ
2017年3月15日
問題解決能力が低いのは、うつ気味のせいかもしれない
『記憶力を高める科学』より
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エピソード記憶の抑圧が問題解決能力が低下する原因


うつと問題解決能力 ※クリックすると拡大

 このようなメカニズムは、うつ傾向の人にとって不快な出来事を想起せずに済むというメリットにはなりますが、その反面、過去のエピソードを現在の問題解決に生かせないというデメリットになります。

 エピソード記憶のなかでも、特に自分にまつわるエピソードの記憶を「自伝的記憶」といいますが、自伝的記憶には問題解決を助ける機能があります。

◎こんなケースでは、こうやってうまくいった
◎こんなピンチは、こういうふうにしたら打開できた
◎似たような状況のとき、このようにしたら失敗して痛い目にあった
◎あの先生に相談したけどムダだった
◎あの上司はこのようなときに力になってくれた

 こういった個々のエピソードが行動指針を与えてくれるのです。

 自伝的記憶には、こういう状況で、こんなふうにしたら、こんな結果になった、というような具体的なエピソードがいっぱい詰まっています。そして、なにか問題に直面したときには、過去の似たような状況のエピソードをかき集めて、それを参考に、対応方法を考えることができるのです。

 うつ病を患うと一般的に問題解決能力が低下するといわれます。一方で、うつ傾向の人は、超概括的記憶をもち、具体的なエピソードの記憶が乏しいということがわかっています。そうすると、うつ傾向の人は超概括的記憶しかもっていない、つまりイヤな出来事を思いださないように具体的な過去のエピソードを抑圧しているため、問題解決能力が低いのではないかと考えることができます。

 このことを確かめるための心理実験も行われています。

 そこでは、自殺未遂を起こした患者たちを対象に、「引っ越してきたばかりの人が、友だちを求めている」というような社会的な課題を提示し、それを解決するための手段をあげさせました。同時に、感情語を手がかり語として自伝的記憶を想起する課題も実施し、そこで思いだされた出来事の具体性がチェックされました。

 その結果、想起された自伝的記憶の超概括性の程度が高い人ほど、問題解決のために有効な手段を考えることができないことがわかったのです。このように、具体的なエピソードを思いださないことが、目の前の課題への解決能力の低さにつながっていることが実証されています。

 うつ気味の人の情緒面に着目すると、気分が沈み、気力が乏しくなっており、冷静さも失っているため、問題解決がうまくできないということも、十分考えられます。しかし、このような実験結果を見ると、具体的なエピソードが乏しい超概括的記憶しかもたないことが問題解決を阻害している面もあることがわかります。

 この場合の超概括的記憶というのは、顕在化している記憶のことです。うつが治ると、記憶の抑圧が解け、潜在記憶に閉じ込められていた具体的なエピソードについての記憶が活性化され、問題解決能力も高まると考えられるのです。

(了)
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記憶力を高める科学
勉強や仕事の効率を上げる理論と実践
榎本 博明 著



榎本 博明(えのもと ひろあき)
1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝勤務ののち、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを歴任。現在、MP人間科学研究所代表。心理学博士。おもな著書に、『<私>の心理学的探求』(有斐閣)、『「自己」の心理学』(サイエンス社)、『自己開示の心理学的研究』(北大路書房)、『<ほんとうの自分>のつくり方』(講談社現代新書)、『「上から目線」の構造』『「やりたい仕事」病』(日本経済新聞出版社)、『記憶はウソをつく』(祥伝社新書)、『つらい記憶がなくなる日』(主婦の友新書)、『記憶の整理術』(PHP新書)、『仕事で使える心理学』『モチベーションの新法則』(日経文庫)、『ネガティブ思考力』(幻冬舎)などがある。