スキルアップ
2013年12月25日
滝川クリステルの「ビジュアルハンド」から学ぶ"伝える力"
[連載] 心を動かす!「伝える」技術【1】
文・荒井 好一
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「ビジュアルハンド」の効能とは?


 スピーチをしているときに使う手の動きを、「ビジュアルハンド」といいます。

 プレゼンテーションやスピーチでは、言葉を声にして相手に伝えますから、耳に届ける音声情報が中心になります。そこに手の動きによって言葉や意味を図解することで、目からビジュアル情報としてプラスするのです。私たちはよく、道順を教える時に言葉だけで分かりにくい場合は、メモ用紙に簡略な地図を書きます。あれと同じです。耳と目の情報を一致させることにより、分かりやすさと印象の強さを与えるのが、プレゼンテーションやスピーチの時の手の役割です。

 聴衆が、プレゼンターやスピーカーを見ている時、顔の次に目につくのが手の動きです。ところが手をどのように使えば良いかを分からないまま話し始めると、手は腰の前で固まったままか、意味なく目障りに動くかどちらかです。

 ですから、手に役割を与えて積極的に動かすことで、ネガティブな動きを制御すると共に、スピーチに分かりやすさと躍動感をプラスできるのです。

 ビジュアルハンドを使う場合の注意事項は、手先をチマチマと動かさないこと。正確に形作ること。そして、できるだけ大きな動作でメリハリをつけましょう。手を体の幅以上に広く大きく動かすことで、ダイナミックで自信にあふれているように見せられるからです。

★★ここが学びのポイント★★
 積極的に手を使うと、見ていて楽しいスピーチになります。そのために、プレゼンの原稿内容を「手の表現」の観点で修正してみてください。
☆「たくさんの」という言葉を、具体的に「5個の」に置き換えて、手で5の表現を。
☆「大きな箱」という言葉を、「縦横50cm」に置き換えて、手で50cmの表現を。
☆「いいですね」という言葉を、「拍手を贈ります」に置き換えて、手で拍手をする
☆「フォローします」という言葉を、「支えます」に置き換えて、両手で支える表現を。


「おもてなし」という言葉とジェスチャーが入れられた経緯


 後日談として、彼女の古巣FNNの「ニュースジャパン」で本人が打ち明けていましたが、そもそもあの「おもてなし」という言葉をプレゼンに入れたことは、彼女自身の発案であったといいます。「プレゼンの内容はみんなで話し合って決めています。おもてなしは前々から入れたかったのです。だって日本の文化ですし、東京の文化でしょう。どの世代でどの場所にでもあるものです。日本の強みだから入れてくださいと提案して、入れてもらったのです」

 あのジェスチャーもですか、という問いかけには、次のように答えています。

「作ってもらったんです、あれは(笑)。最初は恥ずかしかったけれど、プレゼンでジェスチャーは大事ですから。特にあんな大きな会場でいろんな人に対して胸を張ってアピールする場なのでね、頑張って何度も練習しました」

 この経緯については、招致委員会広報からの証言もあります。

「ライバル都市の国際コミュニケーションは常に観察・分析していたが、5月にロシアで開かれた国際会議で、他の2都市のプレゼンのビジュアル素材が非常に都市景観に偏っていたことが表面化した。(中略)

 あらためてTOKYOのディスティネーションとしての魅力をどう伝えるか真剣に考え、都市景観ではない魅力、つまりそこで感じられること、訪れることで経験できること、人に出会って得られるフィーリング、そういうこの都会(まち)のソフト面にあらためて比重を置いたコミュニケーションをする方向でチームがまとまり始めていた」(高谷正哲・戦略広報部シニアディレクター代行)

 プレゼンテーションを映像で見た日本人も、まさか「おもてなし」という言葉が出てくるとは思わず、いささか驚いたのも事実です。ところが、すぐになるほどと納得して、共感した方も多かったでしょう。確かに、おもてなしは日本の文化ですし、日本人固有のホスピタリティを表しています。

 おもてなしの語源は、「そのようにする」などの意味の「なす(成)」に、接頭語「もて」がついたもの。そもそもの意味は「とりなす」とか、「取り扱う」というもので、客に対する扱いを意味する語として用いられるようになったのは、中世以降だと言います。

 千利休が完成させた茶の湯には、そうしたもてなしの精神があふれています。
「茶道とは『もてなし』と『しつらい』の美学だといってもよいでしょう。亭主となった人は、まず露地(庭園)をととのえ、茶室の中に、掛物や水指・茶碗・釜などを用意して、演出の準備をしなければなりません。これらはすべて日本の風土が育んできた文化的な結晶といえるものばかりです。だから茶道とは『日本的な美の世界』だということができます。そして亭主と客の間に通う人間的なぬくもりが重要な要素となります」(裏千家HPより)

 このおもてなしの精神は、茶道だけでなく、華道でも、小笠原流などの礼法でも根底に貫かれているものです。





心を動かす!「伝える」技術
五輪招致7人のプレゼンターから学ぶ
荒井好一 著



【著者】荒井 好一(あらい よしかず)
1971年同志社大学法学部卒。総合広告会社・大広(業界4位)に38年在籍し、クリエイティブ・ディレクターとして、パナソニック、キリンビール、武田薬品などを中心に600本余りのプレゼン歴がある。クリエイティブ局長、経営企画局長を経て人事担当役員に就任し、専門教育プログラムを開発。2010年に、「一般社団法人 日本プレゼン・スピーチ能力検定協会」を設立し、理事長に就任。 新しいプレゼンテーションとスピーチの価値を開発・啓蒙すべく、日々研究を重ねている。 「目・手・声」の身体コミュニケーション機能を駆使する独自のメソッドで、「プレゼン・スピーチセミナー(全5回コース)」を、東京・永田町教室で30 期、大阪教室で5期、開催してきた。企業研修でも、みずほ総研のプレゼンテーション講座や、東京海上日動火災保険のカフェテリア研修に採用されている。企業経営者や幹部向けを含むパーソナルレッスンを60回以上実施。IT企業や技術メーカーの「伝えられる技術職」「売れる営業職」のスキル向上にも貢献し、高い評価を得ている。 著書に、『心を動かす!「伝える」技術 五輪招致7人のプレゼンターから学ぶ』(SBクリエイティブ)、『日本人はなぜスピーチを学ばないのだろう』(象の森書房)がある。
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