ビジネス
2014年2月28日
シャア・アズナブルに学ぶ「しなやかなリーダーシップ」
文・松山 淳/監修・株式会社サンライズ
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なぜシャアは、上司をうまくマネジメントできたのか?


 シャアはドズル・ザビ中将が率いる宇宙攻撃軍の一部隊を率いる指揮官でした。シャアは少佐から大佐へ昇進します。軍隊組織の大将、中将などの「将官」が、企業組織の役員です。大佐、少佐など「佐官」は「将官」の下であり、シャアは会社でいえばミドル・マネジャー(中間管理職)です。
 作戦の遂行や変更には上司の同意が必要であり、「報告・連絡・相談」をしながらコトを進めていくのはビジネスと同じです。失敗があれば報告し、名誉挽回を期して上司に援助を求める交渉は、ミドル・マネジャーの腕のみせどころです。

 第1話『ガンダム大地に立つ!!』でシャアは、地球連邦軍が極秘裏に開発を進めたと噂されるホワイトベースを発見し、宇宙コロニー「サイド7」まで追尾します。シャアは偵察を目的に、部下(ザク3機)をサイド7に潜入させます。ところが、功を焦った部下が攻撃してしまうのです。偶然その場にいたアムロがガンダムを操縦し、2機のザクを撃破。シャアの部隊は大きな損害を被ります。指揮官にとって手痛い失敗です。シャアは補給を受けるため、通信回線を開き上官のドズル・ザビと交渉します。

 実はその前日、ドズルはシャアが遂行した掃討作戦の終了を祝って晩餐会を開く予定でした。シャアはホワイトベースを追尾して出席せず、ドズルは腹をたてています。シャアは恐らくドズルの立腹を予想していたでしょう。回線がつながるとドズルは怒りを露わにします。
 "ゆうべはな、貴様の作戦終了を祝うつもりでおった。貴様がもたもたしてくれたおかげで晩餐の支度はすべて無駄になったんだ、え?"。すると、シャアはこう応じます。

 "連邦軍のV作戦をキャッチしたのです、ドズル中将"(第2話『ガンダム破壊命令』)

 この後、数回のやりとりがあり、シャアが"帰還途中でありましたので、ミサイル、弾薬がすべて底をつき"というと、ドズルは、"補給が欲しいのだな? まわす"と、シャアの要求を即断即決で飲みます。そして、"幸いであります。それに、ザクの補給も三機"と、シャアは自らの失敗を補給という話題にすりかえて報告。これもドズルが容認し、シャアは失敗について、責められもせず、弁解もせず、自分の望み通りに上司との交渉を終えるのです。

 上司が怒っていることを知りながら失敗を報告するのは、火に油を注ぐようなものであり、誰もが躊躇します。ここでシャアが巧みなのは、晩餐会の欠席を謝罪もせず、"V作戦をキャッチ"というドズルにとって興味を引く「メリット」になる話題でカウンターパンチを浴びせている点です。
 ドズルは軍人である自分に高い誇りを抱くリーダーのようです。話の優先順位として、「晩餐会」より「作戦の動向」が上です。シャアはドズルの性格タイプを熟知していたはずです。上司の心を動かすツボをおさえたシャアのしたたかな交渉術であり、自分の上司をマネジメントする巧みな技術でした。

 メリットが大きければ、デメリット(失敗)はより小さく感じられる。

 シャアはこの心理法則を使い、「失敗の事実を上回るメリット」と「上司の性格を把握し、優先順位の高い話題」を的確に提示することで、怒る上司に自分の要求を認めさせることに成功したのです。


『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ
松山 淳 著  株式会社サンライズ 監修



【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。
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