ビジネス
2014年2月28日
シャア・アズナブルに学ぶ「しなやかなリーダーシップ」
文・松山 淳/監修・株式会社サンライズ
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なぜシャアは、部下をモチベートするのがうまかったのか?


 "我々指揮官は最前線で士気を鼓舞しなければな"(第8話『戦場は荒野』)

 シャアが、士官学校の同期であり仇敵であるガルマ・ザビに言ったセリフです。リーダーの役割は多岐に及びますが、その中で、部下の心に働きかけてやる気を高めることは、未来永劫変わらない重要なものです。クールなイメージの強いシャアです。しかしこのセリフ通り彼は、作戦前や戦闘中に部下をモチベートする心温まる言葉を発しているのです。

 例えば、前述した大気圏突入戦の時です。戦闘時間は短く、ザクは大気圏では燃え尽きてしまう極めてハイリスクな作戦です。出撃直前、ザクのパイロットたちを前にしてシャアは、作戦の方向性や目標を伝えた後、部下の士気を鼓舞するために、最後、こういうのです。

 "戦闘時間は2分とないはずだが、諸君らであればこの作戦を成し遂げられるだろう。期待する"(第5話『大気圏突入』)

 ここでポイントとなる言葉は"諸君らであれば"です。この任務を成功させるのは、他の誰でもない君たちであると、「唯一無二性」を伝えることは、部下の心に「自己重要感」を育みます。仕事をするうえで「自分は必要とされる重要な存在だ」と感じられる感覚は、モチベーションの源です。
 「自己重要感」は、他人から認められることによって生まれます。人には「承認欲求」があり、他人から「認められたい」という思いは人をつき動かすものとして、本能的なものです。シャアは部下を承認する言葉を欠かさないリーダーなのです。

 大気圏突入戦の戦端が開かれ、シャアたちはホワイトべースに襲いかかります。シャアの部下コムが攻撃を受け、ザクの右手が使えなくなります。シャアが連絡をとると、コムから"ヒート・ホークは左手で使えます"と勇ましい言葉が返ってきました。これを受けてシャアはいいます。

 "上等だ、よく切り抜けてくれた。私と敵のモビルスーツにあたる"(第5話『大気圏突入』)

 右手の被弾は失敗ともいえます。ネガティブ思考なリーダーだと、「何してるんだ!」と叱責したり「どうしてそうなったんだ?」と詰問したりするでしょう。シャアは違います。まず"上等だ"と失敗をポジティブに評価し、"よく切り抜けてくれた"と承認し、それから指示命令を下しているのです。
 宇宙空間でホワイトベースと正面から撃ち合いをした時もです。射程距離に入ったホワイトベースが先に一斉射撃をしてきたのをシャアはギリギリまで待ち、そして声を大にして命令します。

 "よし、よく我慢した。撃てっ"(第31話『ザンジバル、追撃!』)

 "上等だ、よく切り抜けてくれた"も"よし、よく我慢した"も、口にすれば1~2秒です。こうした部下を承認する小さな言葉を、戦場という極限状態においても欠かさず口にしていることが、シャアの優れた点であり、"赤い彗星"から私たちが学びたい部下のモチベーションを高めるポイントです。


『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ
松山 淳 著  株式会社サンライズ 監修



【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。
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